14-24mm F2.8 DG HSM | Art Impression

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 16mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

SIGMAには古くから12mmスタートの超広角ズームがラインアップされていた。初代の登場時、他社の広角ズームといえばワイド端は17mm近辺であったため大変驚かされたのと同時に、飛びつくように購入したことをよく覚えている。見慣れた景色が12mmで覗くとまるで別世界。SIGMAというメーカーは、いつだって我々を新しい世界へ誘うのだ。ご存じの通り12mmスタートの超広角ズームは、F4通しのレンズとして現在もArtラインにラインアップされている(SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art)。

そして今度はSIGMA 14-24mm F2.8 DG HSM | Artの登場だ。現行の12-24mm F4 DG HSM | Art同様、ディストーションを徹底的に抑え込み、本レンズは特にサジタルコマフレアの抑制にも力を入れたとのこと。12-24mm F4 がよりワイドに写しとめること、そして超広角ニーズに応えるレンズだとすれば、今回登場の14-24mm F2.8は、その開放F値からもさらに明確なターゲットに対して用いたい人々に向けたレンズだろう。いずれにせよ、この選択肢をラインアップで示すあたりが、SIGMAがSIGMAたる所以である。いまでこそカメラやセンサーを創るメーカーとしてのイメージも強くなったが、元々は豊富な交換レンズ群をラインアップする生粋のレンズメーカー。レンズ交換式カメラの面白さと愉しみの1つは、当然の如くレンズを交換できることだ。そこに多種多様のラインアップで応えてきたのがSIGMAというメーカーなのである。

担当者からテストレンズを手渡される際、毎度「試してみてください」といった要件らしきものも同時に渡される。まず水平線が写り込むもので「風景や建物」‥歪曲を見るにはちょうどよい。そして「星空」とあった。倍率が2倍に満たないとはいえF2.8大口径のズームで、はたして星が綺麗な丸を描いて写るのだろうかと思うのだが、自信がなければ言うはずもない。そんなわけで、海沿いの景色、星空、最後に街に持ち出してみることとした。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/500s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

臨場感を生む圧倒的な描写性能

2018年、初日の出の瞬間。開放での撮影だが、実にシャープな像を結ぶ。太陽の横、鳥が写り込んでいるが、当初センサー上のゴミが写り込んでいるのかと思った。中央付近だが、これだけ高輝度な被写体の横で鳥の縁に嫌なフリンジなどは出ない。しかも5,000万画素オーバーのボディでこの描写は天晴れというべきものである。14mmという超広角であっても、何もかもが写り込むだけといった描写ではなく、実に立体感がある。これは2つの要素が相乗効果として現れているのだと思う。1つは、レンズのもつ解像力がボディの画素数を活かしていること。もう1つは、F2.8が持つ被写界深度。この焦点距離とピークを置いたポイントまでの距離を考えればボケ量などたかがしれているのだが、レンズとボディの組み合わせがピントピークをきっちり描きボケと対比する。だからこそなのだ。太平洋を望むその水平線は、呆れるほどに真っ直ぐ。さすがに周辺減光は認められるが、これは絞り込めば問題ない。むしろこの程度しか落ちないのかと感心した。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 8s
絞り値 F2.8
露出モード M-マニュアル
ISO感度 3200
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

星空撮影に作画自由度を。

天の川を写し込むような撮影の場合、14mmあたりが必要になるのだろうと思う。星空の撮影については殆ど経験がないが、14mmを単純に空に向けるのもなかなか難しい。環境によっては、その広大な画角が様々なものをフレームに入れ込んでしまう。逆に星空だけを純粋に撮るよりは、何かしらの前景を入れたい。そうなると14mmスタートのF2.8超広角ズームという存在は、作画自由度を高めてくれる存在として大変ありがたいのだ。さて、100%等倍で画像をチェックしてみる。必然的に開放での撮影になるが、星を流さないとなるとISO 1600程度で10秒以内の露光としたい。星ひとつひとつがきっちり解像している。また、妙な像の流れは周辺まで認められず、サジタルコマフレアもきっちり抑え込まれていた。結果、星がきちんと「丸」に写る。これまで興味をもっていなかった分野で大したものが撮れるとも思えなかったし実際に撮れないが、これは面白い。エキスパートな皆さんであれば、より明るい14mm F1.8 DG HSM | Artをチョイスするのかもしれない。しかし撮り慣れていない私なら本レンズをチョイスするだろう。ズームリングを回せるということは、本当にありがたい。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/100s
絞り値 F4
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

直線が直線として写る凄み

「歪曲なんて画像処理でどうにでもなる」そんなコメントを聞くことが多い。確かにソフトウエアにおいて補正は簡単に行えるようになったが、最初から直線は直線としてきちんと写り込んでいることに越したことはない。そもそも現場で詰めたフレームが画像処理で変わってしまう。たとえば建築写真家が、現場においてミリ単位でフレーミングし、撮影を行ったとする。それを一枚一枚ソフトで補正するなど、うんざりする作業だろう。超広角レンズを用いてミリ単位で表情が変わる中から、セレクトカットを収めることが作業の核なのだから。ひとしきり街中で建物を撮って回ってみた。担当者の触れ込み通りの写りだ。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/60s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

まず直線がしっかり直線で写ることに感動するが、キレも凄い。これは気持ちがよい。コントラストは高く、かといって階調が詰まったりすることもなく、滑らかだ。夜中に三脚に据えて、上空の雲を流したらどうだろう。そんな風に、意欲駆られるレンズだ。

しかしこれだけ真っ直ぐ写るからこそ、レンズが右方向に振られたことが気になり、悔いてしまう。どんなものでもそうだが、モノとしての力を感じさせられると、こちらもそれなりの接し方をしなければならないと思う。ウェルカム、ウェルカム。こんなレンズは使っていて楽しい。「何を撮ろうか」という気にさせてくれる。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/13s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

不思議なもので歪曲がないと思うと、真っ直ぐ構えなければならないと思ってしまう。スナップ撮影で瞬時に水平垂直を出して、正対するのは大変難しい。しかしおかげで自分のクセがよくよくわかった。上のカットは男性にピントを置いているが、革の質感がよく再現されていると感心。立体感もある。硬すぎず階調再現も滑らか、しかしヌケの良さも感じる。昨今のSIGMAレンズに共通する特長を感じる。日の入り直前で、光量の無いシーンだったが、開放F2.8であれば最低限の感度アップで収められる。これも本レンズが持つアドバンテージだろう。もちろん、開放の描写がモノになるレンズであることが前提だが。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/1000s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 14mm
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

単純にワイド端14mmという超広角レンズであり、そのダイナミックな描写をもちろん楽しめる。振り回すには少し大きなレンズだが、これだけ写るのだ。そこは相殺だろう。それにしても最近のSIGMAは、レンズが大きくなることについてのリミッターが外れている気もしないではない。性能面で譲れないものがあるのだろう。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/10s
絞り値 F8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
ホワイトバランス オート
撮影者 中村 航

© 中村 航 Wataru Nakamura

「2018年・SIGMA基準」の超広角ズーム

そう簡単なスペックのレンズではないと思うが、ちょっと見たことのない描写をする超広角ズームだ。SIGMAは3つのプロダクトラインに自社製レンズをカテゴライズするとアナウンスして、矢継ぎ早にレンズを発表してきた。そのリリースにおけるスピードたるや、目を見張るモノがある。どのレンズも一様に評価が高く、特に単焦点のArtシリーズの評判は皆さんもご存じの通りだろう。しかし本レンズは14-24mm F2.8というスペックだ。単焦点レンズの何倍も設計難易度は高いと容易に想像され、それらと同列に並べるのは気の毒な話だ。しかし人の期待とは勝手に上がっていくものであり、作る側も例外ではないだろう。テストした印象としては、単焦点だから、ズームだから、そんなことを忘れてしまう素晴らしい描写だ。高画素機が並ぶこのタイミングで、それを存分に活かして写真を1つ上のステージに導く能力を持ち、プロフェッショナルの現場で信頼を寄せられる写りである。2018年、SIGMAが定義する写りを体現した1本であり、これが最先端であろう。これが舌の浮くようなお世辞かどうか、ぜひ試していただきたい。