

24-70mm F2.8 DG OS HSM | Art Impression
“標準ズーム”というものが登場した頃は、2倍程度のズームであり、開放F値も暗かった。ワイド端焦点距離はいまのように24mmではなく、もっと長かった。あるときを境に35mmそして28mmとよりワイドとなり、ワイド端からテレ端まで開放F値はF2.8となった。いまでは24mmが当たり前になり、挙げ句の果てには手ブレ補正機構まで実装されている。今回この新作レンズにも遂に搭載された。
F2.8通しの標準ズームの開発は、そう容易いものではない。恒常的に使用される性格のものである以上コンパクトさを求めたい。しかし、ズーム倍率も高く、大口径、手ブレ補正機構と、レンズが大きくなる要素だらけなのだ。スタッフから手渡されて、カメラにマウントしてみる。手ブレ補正機構実装の影響か、少し鏡筒が太さを感じるものの全長は十二分にコンパクト。よくこのサイズにまとまったなという印象だ。
高画素化の一途を辿る昨今のデジタルカメラを考えれば、手ブレ補正機構の実装は本当にありがたい。せっかくなので三脚は車に置いたまま、手持ち撮影。5千万画素クラスのカメラにマウントしてフィールドへ連れ出してみるとしよう。
コンパクトであること、
手持ちで捉えられること。
F2.8通しのズームとなると、どうしてもレンズは肥大化してしまう。日頃、標準域はコンパクトな単焦点レンズをマウントしているため、大きなレンズを持ち出すのはそれだけで億劫になってしまう。ただし手ブレ補正機構が搭載されるとなると話は別だ。手持ちで撮影できるシーンが格段に増える。なによりも画が止まることのほうが大事だ。たとえば祭りを撮ろうと持ち出しても、三脚に据えて撮る余裕などまったくない。もし手ブレ補正機構が搭載されてない大口径標準ズームしか手元になかったら、もう少し開放F値の暗いズームでよいから、コンパクトで手ブレ補正機構が搭載されているレンズをチョイスしそうなものだ。要は、大口径の魅力はわかっていながらも、持ち出すのに構えてしまう。気軽に持ち出せないのだ。本レンズは、手ブレ補正機構が搭載された上に、十二分にコンパクトに仕上がっている。これは本当に嬉しい。手にしたくなる。理由はともあれ、機材はこれが最も大切。
5千万画素クラスとなると思いのほか微細ブレが頻発する。シャッター速度が1/250であったとしても、正直安心できない。もちろん、手ブレ補正機構はしっかりと止めてくれた。きちんと止めてくれることがファインダーを覗くメンタルを変えてくる。これも大きい。
開放から存分にシャープであり、カチッと写る。その場の空気を切り取って持ち帰ることができるような、写りに質量を感じるのだ。日差し、熱気、祭囃子に歓声、それらをグッと凝縮する写り。
ボケ味もよく躾けられている。同じ距離のバックだったとしても、中央と周辺で著しくボケ味やボケ量が変わるレンズを見かけるが、本レンズにはそれはない。素直で、丸さがあり、扱いやすい。ピントを置いた部分から、なだらかに輪郭を失い被写体を浮き上がらせる。これこそが大口径を使う意味である。
しかし、祭りの男はいつ見ても恰好よい。彼らは御輿を担ぐだけではなく、街を担ぐのだ。
複数の単焦点レンズの代わりになりえるか。
標準ズームを手にする理由はそこだ。
シグマの場合、写りを追求するがあまり例外があるが、そもそも24mmから70mm近辺の単焦点レンズは、そう驚くほど大きなレンズはない。撮るものが明確であれば、複数の単焦点レンズを持っていってもよい。レンズもシンプルなほうが、設計の難易度は下がり、写りもよくなりやすい。しかし、撮り手としては画角の制約はできる限り無いのが望ましい。あと1度、そんなフレームの微調整ができるズームを使いたいのだ。ガレ道を登り、足下が危うく、あまり身動きの取れない場面、本レンズは、裏切らない確実な描写と、コンパクトが故のハンドリングの良さで応えてくれた。
苔生した足下、身を乗り出してワイド端、手持ち1/4秒。24mmといえど、これを止めてくれるのは驚きだ。なにせ、画素数が画素数なのだ。
強い日差しが差すものの、山の中の澄んだ空気。その雰囲気をよく写し止める。ほんの少しだけ絞り込んでいるが、高画素機にレンズが負けることは一切ない。このあたりは、開発陣の頭痛の種であろうFoveonセンサー搭載機が常にベンチマークのメーカーだけある。画素数が活かされた実に緻密で繊細な描写である。
藤の花を撮るのは難しい。花弁が小さいうえに密集し、光が降り注ぐ中で撮りたいものの、輝度差が大きくなりがちで、ハイライトの飛ばし具合が難しいのだ。レンズの階調も問われる。たおやかで、よい塩梅だ。ポートレートなどにも向くだろう。
付けっぱなし、ふだん使いで画のグレードを上げる
写真が楽しければ、カメラを触るのも楽しい。あれこれと、いろいろなレンズをマウントして写りの違いを楽しみたくもなる。あるとき、ズームレンズから単焦点レンズに持ち替え、大口径の描写の面白さに触れ、単焦点ならではのキレに感じ入る。ふだん使いにも単焦点レンズをマウントし、それを日々持ち歩くことすら「遊び」になる。心当たりのある方ばかりだろう。
本レンズは、24mm F2.8 / 35mm F2.8 / 50mm F2.8 / 70mm F2.8、これらの単焦点レンズをまとめたようなレンズである。もちろん、それが「ズームレンズ」であり、よく言われる「単焦点レンズの写りに匹敵するズームレンズ」というコピーをバラしただけだ。一言だけ、そこに付け加えたい。「しみじみ佳い」と。
交換レンズを渡り歩いていくと、開放F値の暗い単焦点レンズの描写に驚かされるときがある。大口径のような派手さはないのだが、性能面の高さが味わい深い描写を見せるのだ。単に設計の難易度が下がるが故にそのような描写力であって、言ってみれば不思議ではない。本レンズの描写は「その種のもの」であると言える。
コンパクトで手ブレ補正のサポートがあり、描写もよい。仕事の道具で用いるには、仕上がりが予想できる「易しさ」が重視される。魅力を感じるレンズだ。そして、仕事のような際立ったシーンで易しさを感じるレンズは、当然ふだん使いのようなシチュエーションでも扱いやすい。標準域はこのレンズに任せておけばよいだろう。しみじみ佳さを感じる描写は、趣味性の面でも満たしてくれる1本だ。
本当は200mmぐらいのレンズで、車と雲と映り込み、これをクローズアップしたいところ。この程度の距離で70mmは、眺めている雰囲気が出て、それはそれでよい。
テーブルの上は、単焦点よりズームレンズが欲しいと思うことが多い。そして、どうしてもレンズを向けたくなるシーンだ。もっとハイキー気味でも、ボケ味がよい手助けをしてくれそうだ。
子供達を海でひとしきり遊ばせて、ファインダー越しに成長の姿を見る。日の入りだ。肩に提げていたカメラをもう一度手にして、釣り人と絡める。波打ち際にいる我が子をテレ端で、ふと見上げて、ワイド端。標準ズームとはよく言ったもので、おおよそのシーンに対応できる。