70mm F2.8 DG MACRO | Art Impression

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/5 s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

シグマから70mm F2.8のマクロレンズが発表された。Artラインとしては初となるマクロレンズだ。シグマのサイトを見ると、「カミソリマクロ」の文字が踊る。「あの伝説の」ともある。2006年に出た「MACRO 70mm F2.8 EX DG」のことだ。恐ろしくシャープな写りをすることからこのあだ名がついた。今回のレンズは、メーカー公認の「その再来」というわけだ。
シグマというのは、マクロレンズに情熱を捧げて来たメーカーとも言える。私の数え間違いでなければ、シグマは本レンズを入れて過去に16本のマクロレンズを世に送り出して来た。マクロレンズという、存在自体は決して珍しくはないものの、使い方としてはかなり限定された部類に入るレンズを、だ。これを「情熱」と呼ばずして、何と表現する。
マクロレンズは小さなものを大きく撮影するためのレンズ。主たる使い方として、まず求められているのはそれだ。多芸であることも、器用であることも必要ない。だからこそ、その写りに対する評価基準は自ずと厳しいものになる。何でもいい。手近なものに顔を近づけて観察してみよう。何が見えるだろうか・・・細かいところがどうなっているのか分かる。質感が分かる。そして匂いが分かる。ディテールや質感はレンズの守備範囲だが、さすがに匂いは・・・と書きかけて、いや、匂いまで分かるような写りというものが、実際にはあることを思い出す。さらに、肉眼では見えない世界もレンズは見せてくれる。極薄のピント面。溶けていくボケ。妖しい陰影。レンズの描写は肉眼のコピーではない。だからこそ出来ばえのよい写真は記録を超えて作品に昇華する。さて、「カミソリ」と呼ばれるレンズはどんな写りを見せてくれるのだろうか。

カメラ Canon EOS 5Ds R
レンズ 70mm F2.8 DG MACRO | Art
シャッタースピード 1/200s
絞り値 F3.2
露出モード M-マニュアル
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 是永 哲

© 是永 哲 Satoru Korenaga

Botanist

植物学者

マクロレンズのお相手として一番ポピュラーなのは花や植物だろう。自然が作り出す複雑なフォルム、柔らかい/硬い、つるつる/ざらさら、といったディテールや質感をどのように描写するかは、マクロレンズとしての免状のようなもの。その点、このレンズはそんなものを越えて免許皆伝している。またボケ、とくに前ボケの美しさも特筆に値する。加えて、植物の場合はそれが根を張って生きている環境、写真用語的に言うなら「空気感」の表現も自ずと重要なファクターになってくるが、すべての点において、このレンズは文句のつけようもない。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F4.5
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/160s
絞り値 F3.5
露出モード M-マニュアル
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 是永 哲

© 是永 哲 Satoru Korenaga

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/50s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 是永 哲

© 是永 哲 Satoru Korenaga

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/13s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/250s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

On the table

テーブルの上の「出来事」

もう一つ、マクロレンズが大いに活躍する舞台はここだろう。テーブルの上に並べられるものについて、かつてはその見た目を表す形容詞はたくさんあったように思うが、今は「インスタ映えする」という言葉に統一されてしまったようだ。まぁいい。言葉はこの際あまり関係がない。色、カタチ、温度、匂い、さらには舌の上に乗せた時の感覚までが表現される写りであることは間違いない。どうしても斜め上からのアングルが多くなるが、これだけ寄ると絞っても被写界深度は浅い。どこからどこまでをハッキリ見せ、どこから先は(あるいは手前は)うやむやにするか。それをコントロールすることが写真の出来ばえに直結するが、この美しい前後ボケは必要以上に活用したくなる。加えてこの解像感。このヌケ。本当の「映える」とはどういうことか、このレンズが教えてくれることだろう。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F10
露出モード M-マニュアル
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 是永 哲

© 是永 哲 Satoru Korenaga

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/80s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/250s
絞り値 F6.3
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/1250s
絞り値 F4.5
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F11
露出モード M-マニュアル
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

Made of steel

金属に指先を触れるが如く

金属と言ってもいろいろある。ぴかぴかに磨かれた金属に錆びた金属。冷たい金属に熱い金属。いずれにせよ、金属としての表情だけでなく、それに触れた時の感触までが想起される写り。敢えてインナーフォーカスではなく繰り出し式にしたのは、最高の画質を求めた結果。新開発のコアレスDCモーターを搭載し、最新のアルゴリズムで制御することで、駆動音の低減を図り、最適なフォーカススピードを実現したとのことだが、一方でマニュアルでピントを合わせることが多いのもマクロレンズ。狙ったピンポイントにピントを合わせるためだが、特に被写体が金属の場合、その機会は増えるかもしれない。もちろんマニュアルフォーカスの重要性はシグマも先刻承知で、じゅうぶんな幅のあるピントリング、そして見やすいピントピークのおかげでマニュアルフォーカスがまったく苦にならない。いや、それどころか、これは楽しい。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/320s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/800s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/400s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/5s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
レンズ 70mm F2.8 DG MACRO | Art
シャッタースピード 1/3200s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

Ordinary

スナップ、あるいは風景

ちょっと気分を替えて、このレンズでスナップを撮ってみよう。もちろん何の問題も起きない。むしろ、街撮りに70mmという焦点距離はなかなか気分がいい。レンズをどこに向けても、ファインダー内での収まりがいい。構図を決めるのに、広角レンズを使った時のような逡巡がない。さらに、マクロレンズはその使われ方からして、極力素直な写りが求められる。同じ中望遠でもポートレートレンズになると多少の「おまけ」があった方が好まれるが(特に被写体からは)、マクロレンズはそうではない。その点でも、シグマのこのレンズは群を抜いている。「群を抜いた素直さ」という言い方もおかしいが、その素直さを生かして、逆に自由に撮る。山の風景を撮ったカットでは、等倍で確認すると一番遠くに見える山の頂上付近に生えている木が、一本一本解像している。つまり、これ一本でいい。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F5.6
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
レンズ 70mm F2.8 DG MACRO | Art
シャッタースピード 1/2000s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/320s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 200
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/640s
絞り値 F9
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/1250s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

Weathering

風化してゆく

カタチあるもの、みな朽ちて消えてゆく。マクロの視点で眺めてみると、そこに歴史を見て取れる。白、青、赤の順番に塗り重ねられた金属製の物体。それぞれの色の時代は何十年あったのだろうか。白は下地のサーフェーサーかもしれない。風雨に晒されてペンキが落ちかけた看板。そこに、そのペンキを塗った職人の、筆致が再現されている。何十年経ったか知らないが、おそらくもう生きていないであろう職人の、息遣いまで聞こえてくるようではないか。他のマクロレンズではこれが分からない、というのではもちろんない。しかし高い解像感、正確な発色、ピントのシャープさがここまでではなかったら、見え方はだいぶ違ったはずだ。

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/4000s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 800
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/160s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/400s
絞り値 F4.5
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

カメラ Canon EOS 5Ds R
シャッタースピード 1/1250s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 70mm
ホワイトバランス オート
撮影者 岩木 十三

© 岩木 十三 Juzo Iwaki

よく切れるカミソリ には、理由がある

フードをつけた状態の全長は、実測で165mmほど。フィルター径49mmと細身なので長さが目立つが、本体の長さは105.8mmとあるから、これはじゅうぶんな深さを持ったフードによるところが大きい。真面目に作られた、いいフードだ。重さは515gに抑えられているので、取り回しはすこぶる軽快。そして最短撮影距離は25.8cm。フードをつけた状態だと、その先端から6cmほどのところにあたる。

アウトラインはこのようになるが、このレンズにどのような高い技術が注ぎ込まれているかは、すべて特長を紹介したページに詳しく書いてあるので、ここでは繰り返さない。しかし下の方にごく控えめに書かれている、ある一つについては締め括りとして取り上げておきたい。

このレンズは(SGVの他のレンズもそうだが)「A1」と名付けられた、4,600万画素Foveonダイレクトイメージセンサーを用いたMTF測定器で全数検査を受けた上で出荷されている。この測定は、同じくFoveonセンサーで光を受けるSAマウントの場合はいざ知らず、他のマウントでは明らかにオーバースペックとなる検査だ。しかしその工数を、シグマは惜しんでいない。その理由は言うまでもないだろう。設計値通りの高性能レンズが、ユーザーの手にも渡る。そのことの価値。「神は細部に宿る」という言葉がある。その細部に宿る神を見つけるのがマクロレンズだとしたら、そこまでしないと見つけられない神さまも、中にはいらっしゃる。