糸を通すこと、
情熱を写すこと。

マーク・ハース
Marc Haers

アムステルダムのデニムメーカーDENHAMと、ユトレヒトのオーダーメイドテーラーNEW TAILOR。伝統的なオーダーメイドテーラーと近代的なデニムメーカー、それぞれの製作工程の撮影を通して、写真家のマーク・ハースはふたつの世界を探索します。

DENHAMとNEW TAILOR。両者の記録に、完成された伝統と変わり続ける文化との美しい対比を見出すことができます。しかし、そこに在るのは非常に重要な類似点、「技術」です。それぞれの製作工程を(視覚的に)拡大していくと、境界線が薄れていくのが分かるでしょう。例えば日本のBORO(襤褸)も、西洋のテーラリングも、どちらも古くからの技術を用いています。仕立て屋のもとで針と糸が調和する。その瞬間に宿る美しさが、まったく異なる製法を同質のものとして見せているのかもしれません。

DENHAMのサービスショップにはじめて足を踏み入れた瞬間を、今でも鮮明に思い出すことができます。特に興味深かったのは各工程がまったく仕切られていないことでした。旗艦店の真ん中ですべての作業が行われていたのです。
DENHAMは常に誠実で実直なブランドで、それは働いている人々からも感じられます。すべての修理作業を包み隠さず公開していることにも彼らの姿勢が伺えます。それこそがこの取材の動機であり、私自身もこの取材には、彼らと同様に嘘のない態度で臨もうと思いました。ジーンズの修理に施された縫い目と、そこに注がれたスタッフの思い。そうしたものは、なかなか店頭で見られるものではありませんし、写真家にとっては彼らの工程の一部に参加しているような気持ちになることができます。

NEW TAILORではまた違った雰囲気を感じるでしょう。その違いは、かけられる挨拶や、接客での扱いや受け答えによるもの。テーラーであることは分かっていても、古くからの友人に迎えられているような気持ちになります。店内を見渡せばその理由が分かります。細部にまで目を配る彼らの気遣いと暖かいエネルギーが、まるで自宅に居るかのような感覚を作り出し、店中をリラックスした空気で満たしているからです。採寸のためのメインフロアから、衣服の仕上げがされる3階にいたるまで、その店内の装飾のひとつひとつにもそれは感じることができます。緻密な作業が生み出す美しい集合体。それは、採寸し、完璧なラインを作り、生地を正確に裁断する。そうした一つ一つの技術が組み合わさることで成立しています。そして、これこそが私がこの撮影でフォーカスしたかったことでした。

職人の技を記録すること、それは物心ついた時からの私のライフワークです。そのため、この新しいマクロレンズを試すチャンスが巡ってきたとき、新たなレベルに挑戦したいと思いました。私は生粋のポートレート写真家で、普段は主に50mmのレンズを使用しているのですが、この105mmを使ううちに私は新たな表現の世界を発見しました。それは普段なら見過ごしてしまうような、細部に注目するということです。この気付きが現代のテーラーの物語を撮影するというアイデアに繋がりました。
「修理」と「オーダーメイド」を対比させつつ、両方の職人が持つ時代を超えても変わらぬ美しさを記録することができたのです。

照準を合わせる

このレンズは、私に全く新しい世界を見せようとしているのだと感じました。照準を合わせる、これは私にとって、全体のイメージを伝えることに気を取られ、これまでないがしろにしていた細部に目を向けるということでした。こうした視点を持って撮影に臨むのは、これまでとは全く違った集中力を促す新たな遊びのようでした。被写体にこんなに近く密接することは私にとって初めてのことだったのです。

瞬間を捉える

この新しいマクロの世界でのフォーカス体験には驚かされました。マクロレンズのユーザーではなかった私にとって、思い切り被写体に近づいても保たれるフォーカスリングの高い精度は安心感に繋がりました。狙うべき瞬間を決めて焦点を定めるとき、一度もわずらわしい思いをすることはありませんでした。見たものを記録しようと意識することなく、捉えたい瞬間に意識を集中できました。撮影が進むにつれてさらに面白さも増していきます。

さらに広く取り込む

マクロレンズに慣れてきた私は、自分のスタイルで撮影してみたくなりました。本当にこのレンズが完璧なオールラウンダーになりうるのかを試したくなったのです。一歩引いて、写真家として慣れ親しんだ「心地よい距離感」での撮影を始めました。これまでのカットより、より広い範囲を取り込んでポートレートと全体像を撮影します。 このレンズにはとても感動しました。
描き出された細部は驚異的ですらありました。かなり厳しい目で検証してみたにもかかわらず、細部の描写、周辺光量、シャープネス、肌の質感、すべて私がポートレートレンズに要求する水準以上のものでした。
SIGMA 105mm F2.8 DG DN MACRO|Artには驚くことばかりで、マクロレンズそのものに対する私の見方をも変えつつありました。

実用性

実用面についても取り上げておきましょう。まず、軽くて扱いやすいレンズであることは間違いありません。私はスペックを最優先させるタイプの写真家ではないことを先に断っておきますが、そんな私が機材で最も重視するのはハンドリングのしやすさです。使用しているレンズに圧迫されたくないと考えています。その点、このレンズは存在を忘れる瞬間さえありました。Sony α7RⅣとのバランスも絶妙で、使用中なにも不満に感じることはありませんでした。

また、光の少ないシーンであっても画質の低下を気にせずに開放から撮影できたことも、このレンズに対する信頼感を高めてくれました。今回の撮影環境はかなり薄暗く、光源も人工照明で、私とカメラにとっては負担が多く、頼れるのはレンズだけという状況だったからです。

結論

これほどゲームチェンジャーになりえるレンズだとは思っていませんでした。軽さ、使いやすさ、画質、そしてオールラウンドな対応力のおかげで、正直私のマクロレンズに対する考え方は一変させられました。この撮影はテーラーのクラフツマンシップを主題としていましたが、これはSIGMAのレンズづくりに共通する特質でしょう。写真家のニーズに応えて、近接撮影でも遠距離撮影でも高い性能を発揮するように”仕立てる”のは、まさにクラフツマンシップですから。完璧なオールラウンダーと言ってよいでしょう。ポートレート写真家にさえこう言わせてしまう、それほどのレンズです。

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