第319回
龍ヶ谷(たつがや)の春 / Spring in Tatsugaya
May 10, 2023
龍穏寺(りゅうおんじ)の境内は群生するシャガが満開で、黄色いヤマブキも咲く山門前は天然のお花畑だった。背の高い木々が影をつくり、近くに龍ヶ谷川が流れる境内周辺は、やや湿った土地を好むシャガが生息するには都合の良い環境らしく、所々にシャガの群生を見かけた。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 24mm F2 DG DN | Contemporary
4月中旬、埼玉県入間郡越生町龍ヶ谷にある龍穏寺境内のシャガが満開で、花を撮りたければ急いだほうがいいとの連絡が知人からあった。龍穏寺には去年の梅雨明け前、黒山三滝を巡った後に立ち寄った。その際、境内の建物や龍神伝説のある龍ヶ谷にも惹かれ、再訪問して周辺を散策したいと思っていたところ、たまたま同寺と縁がある知人から良い情報を得られ、数日後、寺の建つ龍ヶ谷へ向かった。
前日の午後は雨が降ったようだが、龍穏寺に朝8時に到着すると境内には木々の間から朝陽が差し、清々しい春の朝だった。
朝の清々しい空気感と共に木漏れ日に照らされたシャガの花をカメラに収めた。寺の人によると今年は例年より背丈が高くて見応えがあるとのことだった。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 24mm F2 DG DN | Contemporary
天保13年(1842)に龍穏寺56世道海が再建した重厚な山門は立派だが、山門前まで緩やかに上る石畳の参道もすばらしい。木漏れ日が美しい光と影の世界はモノクロにしてみた。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
寺の人に立ち寄るように勧められた龍ヶ谷熊野神社は、龍穏寺の山門に向かって左手に位置し、寺の守護として天保十五年(一八四四)に創建された。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
龍ヶ谷熊野神社の壁画は立体感に溢れ、本殿裏側の天照大神が天の岩屋戸から出てきたところを彫ったものは圧巻だ。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
熊野神社から群生するシャガ越しに見上げた龍穏寺経蔵。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
特別に経蔵の扉を開けて中を覗かせてもらった。普段は締め切っているので光が入らないから壁画も含めて色が褪せていないとのことだった。
龍穏寺経蔵は越生市のHPを参照:https://www.town.ogose.saitama.jp/kamei/shogaigakushu/bunkazai/kaisetsu/explanation_cultural/H27_05.html
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
言い伝えによると、その昔、龍ヶ谷には悪龍が住む大きな沼があり、その龍が沼の傍を通る旅人を襲っていたが、高僧が法力によって龍を穏やかにさせた。龍の心が穏やかになり寺は龍穏寺と名付けられ、龍に因み龍ヶ谷(たつがや)という地名が生まれた。龍穏寺の基礎となった寺は、西暦807年に現在の境内から数百メートル東南に修験道の寺として建立された。西暦1430年に室町幕府6代将軍・足利義教の命により曹洞宗に改められ、龍神伝説が生まれたのはその頃のようだ。
龍穏寺のHP:http://ryuonji.jp/index.html
私は龍が住んでいたと云われる沼の水を想い、龍ヶ谷川沿いを散策した。
龍穏寺前を通る龍ヶ谷川沿いの道は巨岩街道と名付けられ、川沿いに多くの巨岩を見かける。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
龍穏寺から龍ヶ谷川沿いを上って行くと落差3m程の「龍尾の滝」が見えてきたので川に下り、苔生した岩の間を流れ落ちる水の流れる空間にしばらく身を置き撮影した。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 24mm F2 DG DN | Contemporary
「龍尾の滝」の先には橋が掛けられその橋から川の流れを見渡せた。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
橋で龍ヶ谷川の右岸へ渡り、川の支流が流れる渓に入って行くと滝不動とも呼ばれる「男滝」に突き当たった。落ちる水量は決して多くはないが、マイナスイオンを感じる良い空間だった。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
龍ヶ谷川沿いを散策した後、高僧と悪龍の伝説がある愛宕山(あたごやま)を登った。そこは「龍ヶ谷地域活性化推進委員会」による案内板がなければ見つけることの出来ない場所だった。「龍穏寺の第五代住職、高僧の雲崗俊徳和尚が愛宕山の下に広がる大きな沼に住む悪龍を、ここ愛宕山にて幾日もの間経典を読み上げ悪龍を押え込む戦いが続きましたが、やがて和尚の霊験によって善龍となって雲を呼び竜巻に乗って天に昇ったとの伝説が残っています。山頂の大きな山桜の根元に愛宕神社の小さな祠がありましたが、現在は熊野神社横に八坂神社と共に合祀されています。」と、伝説について分かりやすい説明文が案内板に書かれている。
案内板が立つ道から僅か5mほどの高さの愛宕山は山とは言えないが、低い土地にあった沼を見下ろすには良い場所だったのだろう。
【使用機材】SIGMA fp L, SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
この日は満開のシャガの群生が見られ、気になっていた龍神伝説にも触れられた。その昔、修験道や山岳仏教の修行者が秩父を目指して歩いた龍ヶ谷のある越生町は「ハイキングのまち」を宣言しているのでハイカーには楽しい環境が整っている。歴史も深いのでカメラを持って訪れるのも楽しい町だ。
元気な鳥の鳴き声が木霊する深い森に清流が流れ、シャガが咲く春の龍ヶ谷を動画で撮影した。