インプレッション
ルミのハツユメ
CONTEMPORARY
50mm F1.4 CL DG
by セシール・ローザンストローシュ | Cécile Rosenstrauch
私がルミ・ル・フロックに出会ったのは今から3年前のことです。初めて会ったとき、ルミは私に日本の「初夢」の話をしてくれました。初夢とは、新年を迎えて最初に見る夢のことです。日本では、「一富士二鷹三茄子」と言い、富士山、鷹、ナスが初夢に出てくると特に縁起が良いとされています。この話を聞いて、私は彼女のクリエイティブな世界を覗いてみたいと思うようになりました。後日、ブリュッセルにある彼女のスタジオを訪れた私は、すぐに彼女の作品に魅了されました。ありふれた素材を卓越したアート作品へと変容させる、奇妙な錬金術のようなその創作活動に心を奪われたのです。
ルミの作品には何千枚ものナスの皮が使用されています。レバノン料理のレストランから譲り受けたナスの皮を煮沸し、染色してから、一枚一枚貼り合わせつなぎ合わせることで、作品が生み出されます。その作業には、驚異的な精密さと忍耐力が求められます。ナスの皮を一枚一枚丁寧に選定し、位置を決め、バランスを整えます。手作業の積み重ねによってモチーフを構築し、途方もない美しさのタペストリーが誕生するのです。1点につき最大で7,000枚ものナスの皮を使用し、完成まで数か月の時間を要する作品もあります。
ルミの手によって、ナスは新たな姿へと変貌を遂げます。あるものは地面を、あるものは風景を、またあるものは動きを表現します。富士山を思わせるフォルムが立ち現れることもあれば、翼や飛翔する鳥の姿を想起させる形が出現することもあります。ルミの作品は、夢や変身、そして発生のイメージと素直に響き合います。
ありふれた素材から意外性あふれる作品を生み出すルミの才能に、私は深く感銘を受けました。また、ルミの作品は、これから来るべき時代の「ものづくり」の姿について思いを巡らせるきっかけも与えてくれます。それは、素材の希少性や固有の価値に頼りきるのではなく、素材を変容させることに根差した「ものづくり」の形です。ほとんど無に近い状態から美を生み出すこと。精緻な手作業、忍耐、そして独創性を駆使して、すでにそこにある素材の潜在力を引き出すこと。
複雑でありながら控えめな美しさを備えたルミの作品を撮影するためには、繊細な表現力を持つレンズが必要でした。そこで私は、Sigma 50mm F1.4 CL DG | Contemporaryレンズを使用して、ルミの作品との間に対話を生み出すことを試みました。このレンズも、ルミの作品と同じような独創性を備えています。ベルベットのようなソフトさでイメージを包み込む、抑制の効いたレンダリングにはぬくもりと親密感が感じられ、手で触れたような質感が表現できます。透過性のあるナスの皮の断片の重なり合いやシワが特徴的な効果を生み出すルミのタペストリーの撮影には、まさにうってつけの特性を備えたレンズだと言えます。繊細なテクスチャーや微妙なニュアンスをうまく捉えてくれるレンズなのです。
ここでは、2つの「ものづくり」の力が交差しています。ひとつは、多大な労力を費やしてナスの皮を変容させるルミの手作業の力。もうひとつは、そんなルミの独創的な作品を適切な光で捉えるレンズの力。写真によって、ナスの皮の変容の物語の続きが紡ぎ出されます──ナスの皮が美術作品の素材へと変容し、さらにレンズの力によってその作品がイメージ(写真)へと変容する、といった具合に。
ルミの作品は「初夢」のイメージとも共鳴しています。ナスは縁起の良い3つのシンボルのうちのひとつですが、そのナスの皮が、ルミの手によって、山や、動きや、飛翔のイメージへと変容します。まるで素材そのものが夢を見始めたかのように。そして、このレンズはその夢に優しく寄り添うのです。
似たようなイメージが氾濫している現代社会において、このような高度な独創性は貴重に感じられます。それは、アーティストのユニークなビジョンと、素材との親密な関係性を起点とする独創性です。
もうひとつ付け加えるなら、「ルミ」という名前は、「光」を意味する接頭辞「lumi」に通じています。 彼女自身の名前が、素材と光の組み合わせによって意外性あふれる美を引き出すその作品と、深い部分で響き合っているのです。
Sigma 50mm F1.4 CL DG | Contemporaryを使って私が捉えたかったのは、まさにその光なのです。
BEHIND THE SCENES
ABOUT
セシール・ローザンストローシュ
写真家
セシール・ローザンストローシュは17歳の時に写真を始めた。それ以来、彼女の人生は常に写真とともにある。
ローザンストローシュは自分のことを日常生活の採掘者だと考えている。どんな場所でも、常に金脈を──つまり美を──を追い求める採掘者だ。ある種の光、色、質感、そして思いがけない光景……。
旅は彼女の探索に大きな栄養をもたらす。ただ移動することだけが旅ではない。道の曲がり角、人との出会い、感覚、あるいは記憶からも旅は始まり、新しい体験への扉を開いてくれる。ローザンストローシュの写真はドキュメンタリーではない。むしろ、写真を通じて何かを暗示したい、現実世界と想像の世界の間に橋を架けるような写真を撮りたい、という考えがその制作の根底にある。
ローザンストローシュは、日常生活の断片を、抑制の効いた、そして時には劇的な感覚を持った物語が展開するイメージへと変容させることを好んでいる。旅に出ていない時はより寓話的な世界の構築に取り組み、作品を見た人が自分自身のストーリーを投影できる余地を意図的に残すように心がけている。
彼女の作品の中心にあるのは色彩だ。色は現実を変容させ、認知をシフトし、見つけづらいところに潜む美に光を当てる。