インプレッション
CAPTURED WITH FP2
ユア・アイズ・ネパール
by ミン・ヒョヌ
ミン・ヒョヌが提示するイメージは、ある瞬間が永遠には続かないと知ったときに感じる鮮やかな至福感を伝えている。その瞬間を引き延ばし、その中に身を置き続けることを私たちは願うが、それが叶わぬ願いであることもはっきりとわかっている。ミンの写真作品の核心にあるのは、ある瞬間が過ぎ去ったあとに残る感情だ。
ミンはソウルを拠点とし、グッチやルイ・ヴィトン、モンクレールといったブランドの撮影を手がけるかたわら、友人や知人を題材とした個人的な写真プロジェクトも展開している。そのうちのひとつが、『i-D Magazine』やCNNなどのメディアでも取り上げられた《We are going to live this summer》(私たちはこの夏を生きる)だ。湖で遊びに興じる若者たちの姿を捉えたこの写真シリーズは、夢のような夏のビジョンを浮かび上がらせる。
今回紹介している写真と映像の作品を制作するために、2026年の夏、ミンはネパールのドルポを訪れた。ここで暮らしているチベット人の友人一家を撮影するためだ。これらの作品は、人間の目の形とそれが象徴するものをテーマにミンが継続的に取り組んでいるシリーズ《Your eyes》(ユア・アイズ/あなたの目)の中に位置付けられるものである。
「写真作品は、写真家自身の人生への向き合い方が表現された、一種の詩だと私は考えています」
ミンにとって、写真はただ美しいイメージを生み出す行為にとどまらない。写真は、より大きく広がる何かを生み出す──その中で私たちは、意味を考察し、過ぎ行く時間が呼び起こす感情を捕捉することができるのだ。
「私はいつもこんなふうに話しています。美しいイメージを生み出すことはできるかもしれない。しかし、本当に重要なのは『憧れ』の感情なのだ、と」
「憧れ」はノスタルジア(郷愁)とは違う。常にメランコリー(憂鬱)を伴うわけでもない。ノスタルジアとメランコリーの要素をどちらも含んだ「憧れ」も確かにある。しかし、「憧れ」とは、すでにそこには存在しないものに向けて、時空を超えた感情の橋を架けとようとする行為なのだ。唯一無二の瞬間を保存できる写真は、過ぎ去ったものへと橋を架ける能力を備えている。
「憧れの感覚をまとった光が私は好きです。その瞬間を手放したくないと思わせるような光です」
ミンは、私たちをその場に立ち止まらせるものは何なのか、長い時間をかけて考察を続けている。私たちが実際に体験する美と、私たちが写真に捉えることができるイメージとが一致しないことに気付いた時に抱く失望感が、最初の瞬間に抱いた感動の妨げになっているのではないか、と彼は考えている。
「最近は、そんな最初の直感、カメラを構える前に頭に浮かんだ思考を大切にするようにしています。まずその直感を胸に抱いたままで、しばし待ちます。究極的には、私たちを立ち止まらせたものを捉え、そこに偽りのない感情のつながりを育むことこそが、意味のある写真を生み出すためには重要になるのです」
古典的な写真撮影の世界に確立された境界線の外側へと視線を向けることが、ミンにとって大きな挑戦となっている。彼はいつもこう自問している──固定化したルールの外側へ足を踏み出すにはどうすればよいのだろうか、デザイン的な要素と、生命力や魂の感覚とを結びつけるにはどうしたらよいのだろうか、と。
ミンは、写真が自分の仕事になると考えたことは一度もなかった。彼の母国である韓国では、若者は勉学に励み、しっかり働き、社会のルールに従うことを要求する社会的なプレッシャーが強い。「そこから逸脱するのは難しいことでした」とミンは話す。加えて、写真は好きだったものの、自分に写真の才能があるとは考えていなかったのだ。
しかし、インドへの一人旅が大きな転換点となった。インドの地でさまざまな人生を送る人々に出会ったことで、迷いが消え、自分が本当にやりたいことを追求するための一歩を踏み出す勇気が生まれた。写真が人生の手段となり、人々と交流する機会を提供してくれることに気付いたのだ。 少年時代のミンは絵を描くことも好きだった。しかし、最も強く心を惹かれたのは写真だった。「絵を描くときは、部屋にこもって一人きり、自分だけの時間を過ごすことになります」と彼は言う。「でも、写真には他の人との関わりがあり、共有するものも生まれます。外に出かけ、自然を眺めて、美しいものを発見することもできます」
他人との共同作業で何かを生み出すという写真の特性は、ミンにとって重要な要素であり、他のメディアにはない魅力となっている。写真を通じて人々と絆を築くことは、呼吸療法の一種である「リレーショナル・ブリージング」に似ている、と彼は言う。絆を結ぶことで、見えなかったものがくっきりと見えはじめる。絆が感じられると、イメージも形になる。
この2、3年で、ミンと写真との関係性には変化が生まれている。長年にわたってファッション業界で仕事をしてきたことで、写真家としての成功とは何なのかという問いを深く突き詰めて考えるようになったのだ。そして、そこからドキュメンタリー写真への関心が強まってきた、と彼は言う。これは、ミンが最初に写真に興味を持つようになった原点への回帰、すなわち、他者に視線を向け、他者と関わり合うための新たな方法としての写真の可能性への回帰だ。
以前は、綿密な計算や緻密な計画に基づいた撮影手法は避けていたミンだが、現在は、自然発生的な瞬間とデザイン的な要素とを組み合わせた撮影手法を取り入れるようになっている。そうした手法を用いることは、視覚的な形態の中により深い意味を見出すことにつながるからだ。彼が近年継続的に取り組んでいる《Your eyes》シリーズなどは、まさにその典型例と呼べるだろう。このシリーズの新作の撮影のために、ヒョヌはネパール西部のドルポを訪れた。
《Your eyes》は、人間の目の形とその象徴性を探究するプロジェクトだ。さまざまな眼差しの研究でもあり、私たちの目には何が見えているのかを探る研究でもある。ドルポへの旅は、ミンが自らの現在地を明らかにする契機ともなった。旅を通じて、ミンは自分と被写体となる人々との間に生まれる純粋な人間関係の大切さを改めて深く認識するようになった。ミンにとって、他人とともに何かを創出するという行為は、イメージの美しさと意味性との間に理想のバランスを見出すための方法なのだ。
「私は、快適で居心地の良い環境を保ち、その中で人々と自然な対話を交わしたいと思っています。そうすることで、関わりを持つすべての人が、私と一緒に作品を創り出せるようにしたい。究極的には、ともに過ごす時間を意味のあるものにすることこそが重要なのです」
ABOUT
ミン・ヒョヌ
写真家
ミン・ヒョヌは韓国人写真家。ソウル在住。リモワ、ミュウミュウ、グッチなどの広告写真を手がけ、『Atmos』『GQ China』『Vogue Korea』などの雑誌記事のための写真撮影にも数多く携わっている。2019年に制作した写真作品シリーズ《We are going to live this summer》は2020年にCNNや『iD Magazine』などで紹介された。2025年にルイ・ヴィトンが刊行した写真集『Fashion Eye Singapore』にはミンの写真作品が使われている。ドキュメンタリー的なテクニックとデザイン的な要素を融合させた独自の手法で、刹那的な瞬間がもたらす感情を捉えながら、記憶やノスタルジア、過ぎ行く時間といったテーマを探究し続けている。
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