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Impression: Sigma Aizu Prime Line

Aizu Prime
CINE Lenses

by グラハム・シェルドン|Graham Sheldon

圧倒的な明るさとシャープネス、そして繊細な表現力を追求して設計されたSigma Aizu Prime Lineを紹介します。

私はICG(国際撮影技師組合)Local 600の撮影監督として、脚本作品やコメディ舞台劇、野生動物や実録の犯罪ドキュメンタリーなど幅広く手掛けてきました。そのため、撮影で使用する機材には常に高いパフォーマンスを求めています。
私は2017年からSigma Americaのアンバサダーとして、多くのSigma製品に深く関わってきました。また、さまざまなプロジェクトを経験する中で、数十種類の単焦点レンズやズームレンズを使ってきました。

特にFF High Speed Primeは私にとって定番です。ラインアップ内で一貫したシャープネスと美しいボケ(特に105mm T1.5 FF)が気に入っています。加えて、最近はソニー E マウントカメラでのドキュメンタリー撮影用として、28-105mm F2.8 DG DN | Artや28-45mm DG DN F1.8 | ArtといったArtラインのスチル用レンズも活用するようになりました。

新しいAizu Primeはまさに特別な存在です。Sigma唯一の生産拠点である会津工場で、2年以上の歳月をかけて丹念に作り上げられました。FF High Speed PrimeがArtラインのスチル用レンズをベースにリハウジングしたモデルだったのに対し、Aizu Primeは外観・光学系ともにシネマ専用設計です。その堅牢な作りは、Sigmaの既存シネレンズに親しんできたファンにも安心感をもたらすでしょう。

唯一の生産拠点である会津工場は、Sigmaの誇りそのもの。”Aizu Prime”という名にはその思いが込められています。

Aizu Primeの主な仕様をご紹介します。レンズ前枠径は95mm、重さは平均1.6kg。焦点距離ごとに均一に配置された0.8Mピッチのギアを備え、暗所での撮影に便利な蓄光塗料がすべての指標に施された、現場の撮影チームも納得の仕様です。

マットボックスの交換やフォローフォーカス操作も素早く行えるため、少ないリソースで多くの成果を求められる世界中の撮影チームの即戦力になるといえるでしょう。さらに、27mmと32mmという2つの焦点距離が含まれているのも嬉しいポイントです。どちらも、もっと多くのメーカーにラインアップしてほしいと私が常々思っていた焦点距離です。

これらの12本(発売時は8本、2026年に4本追加)は、世界で初めて 開放T1.3を実現したラージフォーマット用単焦点レンズとして、たとえばAlexa Mini LFのLF Open Gateでの収録にも対応しています。しかし、世界初というだけでは意味がありません。肝心なのは光学性能です。そして、Aizu Primeはその性能を確かに備えています。
※ 2025年6月時点、Sigma調べ。

2025年6月、先行で発表された8本のAizu Prime
Aizu Prime 27mm T1.3 LFをARRI ALEXA Mini LFに装着した様子

私は最近、NBCのテレビ番組「Wild Kingdom」の撮影やコマーシャルの現場で、Aizu Primeをテストする機会に恵まれ、すぐにそれらを撮影に投入しました。確かにルックにはオーガニックな質感がありますが、それ以上に私の目を引いたのは、その立体感です。レンズマニアは、こういったルックを様々な言葉で表現します。たとえば、「ポップ」や「セパレーション」などです。

現場でAizu Primeを使ってみて、その汎用性の高さと、さまざまな状況に対応できる高品質のルックを実感しました。

Aizu Primeの描写で私が最も気に入った点のひとつは、ピントの合った被写体と背景を美しく立体的に分離できることです。モダンかつ自然で程よいシャープネスは、決して攻撃的ではなく、それでいてあらゆる状況でディテールをしっかり引き出します。このルックは、カメラの前に立つ出演者にも喜ばれるでしょう。

Aizu Primeのセットは近距離撮影にも強く、たとえば25mm T1.3 LFの最短撮影距離はわずか1フィート(31cm)です。この値はレンズ先端からではなく、カメラのセンサー位置からの距離です。被写体に近寄って撮影できるため、わざわざマクロレンズを手に取る機会は少なくなるでしょう。

25mm T1.3 LFの最短撮影距離はわずか1フィート(31cm)、75mm T1.3 LFでは2.5フィート(73cm)です。

Aizu Primeでは光源によってわずかなフレアが出ますが、それも決して過剰ではありません。被写体の存在感を損なうほどのフレアは発生しにくいように設計されており、意図的にフレアを演出することも、不要なときに抑えることもできます。このフレアの絶妙なバランスが、映像に深みを与えます。

絶妙なフレアは、無機質にもヴィンテージ風にも偏ることなく、ルックに自然な印象を与えます。

往々にして私たちは良くも悪くも特定のルックを特定のジャンルに結び付けてしまうことがあります—たとえば近年のトゥルー・クライム作品(実際に起きた犯罪を題材とした作品)では冷たく暗めでシャープな画作りが好まれる一方、ロマンティック・コメディでは温かみがあり、彩度の高いルックが主流です。
その点、Aizu Primeのルックは特定のジャンルに限定されることなく、こうした両極端のジャンルから中間まで幅広く対応できるため、オーナーオペレーターでもレンタルハウスでも安心して手元に置けるレンズといえるでしょう。

また、Cooke i/Technologyプロトコルに準じたZeiss eXtended Dataに対応した外部出力端子を搭載しており、将来のワークフローの変化にも対応できる仕様となっています。
もし現在VFXチームと関わりがない場合でも、ポストプロダクションチームはレンズデータを取得できることを歓迎するでしょう。必要なものは互換ポートを備えたカメラ本体へつなぐ4ピンLEMOケーブルだけです。
全てのプロジェクトでZeiss eXtended Dataが必須というわけではありませんが、様々な分野で必須とされる日はそう遠くないはずです。

Zeiss eXtended Dataに対応したLEMO外部端子

サービス面について語られることは少ないですが、Sigmaはその点でも信頼できます。
軍用機内やオーストリアのF1サーキットの脇で撮影を行った経験から言っても、現場ではトラブルがつきものです。だからこそ、トラブルがあっても必要な修理をすぐに受けることができ、撮影を止めずに続けられるという心強さは何物にも代えがたいのです。

Aizu Prime Lineは、一貫性と揺るぎない品質を求める撮影監督にとって、多くの魅力を備えたレンズラインアップです。もちろん、さらに汎用性を求めるなら、先述した28-45mm T2 FFや28-105mm T3 FFを含む、シネ用に改良されたSigmaのAF Cine Lineも有力な選択肢となるでしょう。ソニー Eマウントユーザーとして、私も今後の情報に注目しています。

Sigmaの光学技術の最高峰を体現したAizu Prime Lineが、世界中の撮影監督のキットに加わることを願っています。

シネレンズ市場に多くの選択肢があることは重々承知していますが、私にとってAizu Primeの美しい描写以上に重要なのは「信頼」です。長年シグマのレンズを使い続けてきた経験から、このAizu Prime Lineも雪山やジャングル、砂漠といった過酷な環境に安心して持ち出せると確信しています。

ABOUT

グラハム・シェルドン|Graham Sheldon

エミー賞受賞のプロデューサー兼撮影監督。カリフォルニア州南部を拠点に、全米製作者組合(PGA)のメンバーとして世界中でドキュメンタリーや脚本作品を手がけている。
主な長編映画クレジット:「The Right Girls」(2020)、「The Good Catholic」(2017)、「Ms. White Light」(2020)、「Dry Blood」(2019)、「So Cold the River」(2020)