押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第20回:沖縄、西表島(後編)

ユツンの滝(実際には3段構造の落差35m)は、見えている3段の滝のさらに向こうに、数え切れないほどの滝が天まで続いている、そう私には見えた。滝に打たれ、滝つぼに浮かび泳ぐことを繰り返すと、皆たくましい笑顔になっていた。

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滝の水量は多く、滝からの水しぶきと雨と混ざりレンズは曇るが、神秘的で迫力のある光景は、デジタルカメラにしっかりと記録されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:16 mm

滝つぼから出ると雨は止み、再びガイドのKさんの後をついて、はっきりとした道のないジャングルを歩き始めた。
「この辺りから蛭がたくさん出るから気をつけてくださいね」と、Kさんは告げた。蛭は、地面から靴をつたわりズボンとの小さな隙間から進入してくるので、足元を見ながら足早に歩く。滝の上までたどり着くとそこは緑の森に囲まれた小さな岩のテラスだった。歩いてきた深い森を見下ろせ、その向こうには海が見えた。さらにそこから滝の横をつたわり、もう一段下に降りることになった。Kさんの指示通りの場所に、右手と左手を岩にかけ恐々と降りるとそこも岩のテラスだった。
テラスは少し傾斜しているので、足を踏み外して落ちていたら、滝つぼまで落下しそうだった。Kさんは、背負ってきたバックパックから小さなコンロを取り出し、ツアーに参加した3人と彼の4人分の太めのソバをその場でつくった。ランチは用意されると聞いていたが、温かく美味しいソバを滝の上で食べられるとは思ってもいなかった。疲れた体にスープは沁み、私は一滴も残さずスープを飲み干した。気が付くといつ降り出すか分からなかった雨雲は消え、陽の光が射し、遠くに見える海はきれいなブルーになっていた。

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滝の上は、岩のテラス。右の岩に手をかけ、ここからもう一段下に降りた。
超広角ズームレンズで足元からジャングル、曇った空まで大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:8 mm

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滝の左にある岩をつたわり降りた岩のテラスから滝を見上げると、水しぶきが超広角ズームレンズを直撃する。
コントラストとシャープネスを大きく上げ、流れ落ちる滝を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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ランチのソバができあがる頃、雲が切れて陽が射した。デジタルカメラで切り取られたシャープな光景に、スープの匂いも蘇る。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm

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陽が射すと海がブルーに輝き、滝の周りにはトンボがたくさん飛んでいた。
高倍率ズームレンズで遠くの海をカメラに収める。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:43 mm

レストランに負けない美味しいソバの後は、いい香りのハーブティーを入れてくれた。陽が射す岩のテラスに腰をおろし、青い海を遠くに見ながらの贅沢なランチブレイクの後、気分も新たに滝からジャングルを元気に歩き降りた。
登りと比べると降りるのは楽に感じたが、それでも体中から汗が流れた。トカゲや蝶も多く目撃した。途中から登ってきたルートとは違うルートを歩き、歩くのが辛く感じはじめた頃、流れのない川に飛び込む。水温は暖かく温水プールのようで、小さな魚と一緒になり遊ぶ。ジャングルを歩き滝つぼで遊ぶツアーを終え、民宿に帰った夕方、大粒の雨が降った。
そして、ジャングルと戯れた一日の終りに大きな虹を見た。

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この日よく見かけたコノハチョウ ( Orange Oak Leaf)。13.8倍高倍率ズームレンズを最長に伸ばし、逃げられないように撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:250 mm

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よく見ていると、羽を広げオレンジ色の模様が見えた。内蔵ストロボを発光させ、その瞬間を捉える。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:250 mm

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サキシマカナヘビ(Sakishima grass lizard 、Apeltonotus dorsalis)だと思われる。
暗いジャングルでは内臓ストロボが活躍した。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:フラッシュ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:250 mm

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木に覆われたジャングルの川に陽が射し、小さな魚と泳いだ。浅く見えるが、背の立たないところもある川。川底までクリアーに見える。

使用機材:SIGMA SD15 + 18-250mm F3.5-6.3 DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:18 mm

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雨が何度も降った一日だった。
この日の夕方も大粒の雨が降り、雲はオレンジ色に染まりきれいな虹が出た。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:23 mm

翌日は、シーカヤックで川をさかのぼり、ジャングルを滝まで歩くツアーに参加した。民宿を出発しシーカヤックが置いてある川に到着すると、20代半ばの女性ガイドPさんから簡単なインストラクションを受け、ライフジャケットを着て流れがほとんどない川に出る。私と友人、それに友達同士の3人の大学生、20代後半の若者一人の計6人の男が、ガイドのPさんの案内でゆっくりとマングローブが生い茂る川をさかのぼる。風もなく晴れた朝、順調にシーカヤックを漕ぐ。深いジャングルの向こうの上に目指すピナイサーラの滝が見えてくると間もなくシーカヤックから降り、ライフジャケットを着たまま亜熱帯の自然林の中を歩き出す。

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小柄だか、力もちの女性ガイドPさんに付いていく。
浅く穏やかな川は、ただ浮かんでいるだけで気持ちがいい。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:17 mm

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ピナイサーラの滝が見えてきた。
ピナイはヒゲでサーラは滝の意味。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:25 mm

滑りやすい山道を登り滝の上に到達すると、緑のジャングルと青い海が見下ろせる絶景がここにも待っていた。深い森から流れてきた水は大きな石の間を流れ通り、岩盤の上を流れ、崖から下に流れ落ちている。その様子は、目で見るより肌で感じ取る光景だった。岩盤の上を歩き回っていると、ガイドのPさんは、背負ってきたバックから鍋とコンロを取り出し、彼女の分も含め7人分のカレーをその場でつくっていた。小柄な女性が、7人分のランチに鍋と皿を背負い急な山道を登ってきたことは、私にとって絶景と同じぐらいの感動だった。

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滝の上からシーカヤックでさかのぼってきたピナイ川がよく見えた。落ちたら命はないが、乾いて滑らない岩の上なら崖っぷちに立てる。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:33 mm

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滝に流れ落ちるクリークにカメラを半分沈めて撮影。
この辺りなら滑って滝に落ちる心配はなかった。
水中ハウジング ACQUAPAZZA(APSG-DP2)を使用。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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滝に流れ落ちる水は、深い緑の森から流れてくる。
大きな石は苔が生え滑りやすく、この先に進むのは容易ではない。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:26 mm

ランチの後、滝つぼまで降ると大粒の雨が降りだした。ライフジャケットを着ているので、滝つぼに浮ぶのは楽で、いつまでも水に浸かっていても体が冷えない水温も有難かった。滝に打たれ、滝つぼから出てくるとガイドのPさんは、ハーブティーを用意してくれていた。雨のジャングル島で飲むハーブティーに優しさを感じ、大きな滝からは元気をもらった。滝からは、いろいろな生き物を見ながらジャングルを歩き、再びカヤックを漕ぎだした。この日、カヤックから出るときに少しぐらついた以外、転覆することもなく、カメラと共に無事民宿に戻った。

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落差55mのピナイサーラの滝。
ライフジャケットを着て、雨が降る滝つぼに浮かんで撮影した。
水中ハウジングACQUA PAZZA(APSG-DP2)を使用。
カメラを水中に半分沈めてシャッターを切ると幻想的な写真が写っていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:24.2 mm

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捕まえると死んだふりをするサキシマキノボリトカゲ(p.ishigakiensis)。暗いジャングルだったが、明るい大口径ズームレンズは、ピントも構図の確認も容易だった。
内蔵ストロボを発光しトカゲをシャープに捉える。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:50 mm

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川に出るとすぐに雨が降り、レインコートで保護したカメラもレンズも水滴だらけになった。
湿気でレンズは曇ったが、ソフターをかけたようなムードのある写真が写されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:50 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/50秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:40 mm

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行きと帰りは違う色のカヤックを漕いだが、違いはなかった。引き潮で顔を出したマングローブ、オヒルギ(Bruguiera gymnorrhiza)の呼吸根。
呼吸根(respiratory root)は、泥質の酸素不足を補うため地上に出る根。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

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カヤックから降り、ジャングルで見かけたオオジョロウグモ (Golden orb-web spider )。
メスは体長5センチ、脚を前後に伸ばすと15センチ以上になる日本最大のクモ。オレンジ色のオスは、体調1センチ足らずと小さい。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:50 mm

翌朝、午前中のフェリーで西表島から石垣島に渡り、那覇経由で東京に戻る予定の私と友人は日の出前に自転車を借り、20分ほどの距離にある海岸へ行ってみた。
私は、西表島に着いた翌日に海に出るツアーに参加する予定だったが、前日までの台風の影響で波が少し高くキャンセルをしていた。そして、海よりジャングル歩きを優先し、海で遊ぶ時間がなくなっていたので、滞在最終日の朝に期待をかけたのだった。私が西表島に入る4日前から滞在していた友人によると、この遠浅の海岸は、朝の引き潮時、背が立つぐらいの深さかでもサンゴがきれいに見えたそうだが、この朝、海岸に到着した時刻は満潮だった。サンゴがきれいに見えるポイントまではかなりの距離があり、雨も降ってきたので、私たちは潔く諦め民宿に引き返した。結局、私には海での冒険には縁がなかった。

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東の空が明るくなり、辺りが赤く染まった人影のない西表島の朝。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/80秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:16.6 mm

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引き潮をイメージした海岸は、砂浜がほとんど見えないぐらいの満潮だった。
太陽は昇った後、雨雲の中に隠れドラマチックな朝になった。
右手に見えるのは、ハマユウ(Crinum Lily)。

使用機材:SIGMA DP1s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:16.6 mm

民宿に戻り朝食を食べ終わる頃、絵に書いたような快晴になった。民宿からは、そこで働く若い女性がマイクロバスで上原港まで送ってくれた。5日前、台風の影響で来られるかどうか分からなかった西表島、この朝の海は穏やかだった。
近年、人口2000人の西表島には、その自然を求めて多くの人が訪れている(2006年時には、37万8000人)。
第二次世界大戦の末期、日本軍の命令により波照間島(はてるまじま)の全住民は、当時マラリアの汚染地帯だった西表島の南風見田(はみえだ)海岸に強制的に疎開をさせられ、3分1の島民が命を落した。その当時、西表島に多くの人が観光目的で訪れる日が来ることを、誰が想像したであろうか。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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