押本龍一 ― 私の出会う光景 ― 第24回:秋のカナディアンロッキー 後編(ジャスパー国立公園からバンフ国立公園へ)

周囲に樹木がなく、視界を遮るものが何もないトレール(Parker Ridge Trail)からのサスカチュワン氷河(Saskatchewan Glacier )の眺めは、正にカナディアンロッキーならではの絶景だった。トレールを下り、再びアイスフィールドパークウェイ(The Icefields Parkway)を北に走りだすと間もなくバンフ国立公園からジャスパー国立公園内に入り、人気の観光スポットであるコロンビア大氷原(Columbia Icefields)に立ち寄る。氷原の面積は約325km²、氷の厚さは最大で350mと、大きくて厚い氷の世界が広がっている。私は雪上車で氷河まで行くツアーには参加せず、歩いて大氷原から流れ出たアサバスカ氷河まで近づいた。

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駐車場から歩いて氷河を見に行ける。1982年にはここまで氷河があったと書かれたサイン。
氷河は毎年2,3m、この125年で1.5km以上後退したと言われている。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:18 mm

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コロンビア大氷原から流れ出したアサバスカ氷河(Athabasca Glacier)の末端部まで、歩いて近づく。
彩度を落としコントラストとシャープネスを大きく上げ、雲と氷河の存在感を強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:33 mm

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西日が当たり、眩しく光る氷河。
氷河から吹き降ろしてくる冷たい風で体が揺れ、
レンズをしっかりとホールドして撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:373 mm

氷河を見た後は、標高3000m以上の山々を西に見ながら、北のジャスパーまで一気に走った。アイスフィールドパークウェイは、ジャスパーの町で国道16号線に突き当たり終わりとなる。私は国道16号線を北へ走り、ジャスパーから約80kmに位置し、国立公園の外にある小さなタウン、ヒントン(Hinton)にこの夜宿泊した。
ジャスパー国立公園の多くのアトラクションは、国道16号線沿いにあるか国道から繋がっている。私は公園外の北のタウンに宿泊し、公園の北端から興味のある地を見ながら南下しようと考えたのだ。

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3000m以上の山々が連なる山脈に隠れる前の陽の光が、サンワプタ川(Sunwapta River)を照らし、川の水面が眩しく光る。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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カナダ最大の国立公園(11,228 km² 4335sq.mi)のジャスパーの町付近で、エルクを見かけた。
私は近づいて写真を撮ったが、この後パークレンジャーが来て、もう少し離れるように注意をされた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:70 mm

翌朝、客が少ない宿を出る。暗闇の中、国道16号線を南下しジャスパー国立公園内に入り、すれ違う車がほとんどない道をしばらく走る。東の空が少し明るくなってきた頃、16号線からアサバスカ川(Athabasca River)を渡り、地図に3箇所のアトラクションが記されているマリーン・ロード(Maligne Road)に入った。マリーン・キャニオン(Maligne Canyon)を通り越し東へ20分ほど走ると、明るくなってきた東の空を映し出す大きな水面の前に出る。私には川に見えた水面は、夏は雪解け水で水かさが増し、秋から冬は水かさが下がり一部は沼地のようになる不思議な湖、メディスン湖(Medicine Lake)だった。湖底から水が流れ出て、湖水は自然の地下水路を流れ、下流のマリーン渓谷(Maligne Canyon)へ流れ込んでいる。

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東の空が明るくなった日の出前のメディスン湖(Medicine Lake)。
夏には水位がもっと高かったはずだ。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:25 mm

縦の長さ約7kmのメディスン湖の横を走り、さらに山の奥へ入ると大きな湖に行き着き、道はそこで行き止まりだった。細長い湖の端に小さな橋があり、私はその橋の中央に歩いて行った。湖に背を向け北西を見ると、湖から流れ出た水が川になり、朝日を浴びた山に向かって流れていた。湖に向かい南東を見ると、すっかり明るくなった青い空に白い雲がいい感じで浮かび、小波が立つ湖面には静かにぼけて映っていた。そして、湖を囲む山々の向こうから太陽が顔を出した。

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マリーン・ロードと並行して流れていくマリーン川(Maligne River)。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:35 mm

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カナディアンロッキー最大の氷河湖マリーン・レイク(Maligne Lake)。
湖は細長く縦の長さ約22km、幅(最大)1.5km。面積は19.71 km2 (7.6 sq mi)。最も深い水深は約97m。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:28 mm

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標高1,670mの湖面に、蒸気霧が上がる。
寒さでよく動かない手で、しっかりとレンズを持ち撮影。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:244 mm

この日の朝のマリーン湖には、人影はほとんど無かった。マリーン湖からマリーン・ロードを引き返し、川と間違えたメディスン湖の横を再び走る。ふと気が付くと、湖の向こう岸まで歩いて渡る釣り人の姿を見かけた。大きな風景を独り占めしている釣り人の後ろ姿は、自由と逞しさを感じた。そして湖畔に停めてある釣り人の車の周りに、数頭のビッグホーン・シープがゆっくりと歩き回っていた。

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冷たい水も気にしない釣り人が歩いていた。
水深は膝ぐらいまでと浅いようだった。
これから水かさがまだ減るのだろうか。セピア色は、
冬が迫る晩秋の湖によく似合った。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:332 mm

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釣り人の車の周りをうろうろしていたビッグホーン・シープ。私にも警戒心無しに近づいてきたが、餌付けをされているようだった。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:40 mm

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可愛い顔を見ると餌を与えたくなる気持ちも分かるが、公園内では野性動物に餌を与えないよう呼びかけている。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:91 mm

マリーン湖で折り返すマリーン・ロードを走る旅は、マリーン・キャニオンを散策して締めくくった。深い渓谷を勢いよく流れる水を見ていると、自然の地下排水のシステム(underground drainage system)であるこの辺りの水の流れが、何となく分かった気がした。

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彩度を落としコントラストとシャープネスを上げ、幻想的な水の流れを強調。
三脚にカメラを固定。ミラーをアップして、スローシャッターで撮影。
渓谷は暗かったが、デジタルカメラは水の流れと渓谷の質感を深い描写力で捉える。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1.0秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:40 mm

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最も深いところは50mほどの深い渓谷。もともと深い洞窟だったと考える地質学者もいる。
三脚にカメラを固定し、超広角ズームレンズで覗くように大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD15 + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:0.8秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:9 mm

渓谷を離れ、私と同じ旅人に囲まれ、ジャスパーのレストランで軽いランチを食べた後、アイスフィールドパークウェイを南へ約30km走り、轟音を立てて流れるアサバスカ滝(Athabasca Falls)に見入った。

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ジャスパーの駅。
旅人の後姿に自分と同じ旅心を感じる。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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アサバスカ滝の一部。この右手の方が水は大きく流れ落ちていたが、私はここからの景色が気に入った。
しかし、どこから見ても滝の轟音の激しさは変わらない。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:17 mm

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アサバスカ滝の側に展示されていたBear skin。
美しい熊の毛皮は、人を惹きつけていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:23 mm

アイスフィールドパークウェイをさらに南下し、バンフ国立公園に再び戻る。天候に恵まれたこれまでの旅だったが、空は灰色の雲が覆い始め、雲の隙間から漏れた陽の光は、ロッキー山脈をドラマチックに描き出した。
ボウ・バレー・パークウェイ(Bow Valley Parkway)を走ると、紅葉し輝いていたアスペンツリーは葉を落とし、数日前に見た秋の風景は、すっかり冬を待つ晩秋の風景に変わっていた。私はバンフの町に再び戻った。町で宿を探す前にバンフの駅に寄ってみると、長い貨物列車が走って通りすぎて行った。そして私のカナディアンロッキーの旅もここで終りにした。

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黄葉した葉がまだ落ちずに付いている木とドラマチックな山の背景。
その全ての光景をデジタルカメラで切り取る。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:40 mm

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アスペンツリーの葉がほとんど落ちていた晩秋の風景に、もうすぐ来る長い冬を感じる。
季節の移り変わりの神秘性を、X3 Fill Lightを下げて得られる独自な効果で強調。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:38 mm

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通過する列車が適度にブレるシャッター速度で撮影し、
彩度を落としX3 Fill Lightを上げ、灰色の寒空を強調すると、貨物列車が力強く通り抜けた瞬間の音と、晩秋の空気感までも蘇る。

使用機材:SIGMA SD15 + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:50 mm

バンフではまた同じ宿に泊まった。夜は小雨がぱらついたが翌日は晴れ、カルガリー空港までは快適なドライブだった。空港を時刻通り飛び立った飛行機の窓から、カナディアンロッキーがクリアーに見えた。1984年、ユネスコに世界遺産(World Heritage Site)として登録されたカナディアンロッキー山脈自然公園群(Canadian Rocky Mountain Parks)は、4つの国立公園と3つの州立公園によって構成されている。私は、その4つの国立公園 (バンフ、クートニー、ヨーホー、ジャスパー)全てに足を踏み入れたが、どの国立公園もその一部分を見たに過ぎなかった。大きな自然公園群を余すことなく見て回るには、一生掛けても時間が足りないかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

押本 龍一
プロフィール

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。
84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、 広告写真スタジオで働き始める。
91年フォトグラファーとして独立。
95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。
エンターテインメント関係の撮影中心。
近年はライフワークである旅写真に力を入れている。
趣味は旅と山歩き。
オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

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