インプレッション

無形文化遺産の美に出会う──35mmの眼差しで捉える江南地方の伝統工芸

ART
35mm F1.4 DG II

by 杜立超|Du Lichao

撮影機材の世界には、人の営みと手仕事が交差する瞬間を的確に捉えるレンズが存在します。
その代表格が焦点距離35mmのレンズです。「ドキュメンタリーやカルチャーフォトに最適な焦点距離」として広く知られているこの画角は、人間の視野に近い自然な距離感を保ちつつ、限られた空間においても周囲の環境やディテールを絶妙なバランスで描写します。
Sigma 35mm F1.4 DG II | Artは、この古典的ともいえる焦点距離の強みを、新たな次元へと引き上げています。

江南地方に住んでいる私にとって、竹はどこにでも目にするありふれた植物です。
しかし、その竹で作られた工芸品である「油紙傘(ゆしがさ)」は数千年もの長きにわたって受け継がれてきた優雅さをたたえ、杭州の伝説や物語にも数多く登場します。

今回の撮影では、このレンズを携えて余杭の紙傘工房を訪れ、伝統的な油紙傘がつくられる全ての工程を記録しました。撮影機材と被写体との対話を通じ、私は伝統工芸と現代の光学技術のそれぞれが持つ表現力を自ら体感したいと考えたのです。

素朴な佇まいの村にある小さな工房。中に入ると、竹と紙パルプの匂いが充満しています。
職人たちはそれぞれの作業台に向かい、黙々と手を動かしています。その巧みな指の動きによって、細く裂いた竹と手漉きの紙が、徐々に優美な紙傘へと姿を変えていくのです。

このような狭いスペースの中での撮影では、レンズの対応能力が大いに試されます。
画角が広すぎると画面が散漫になりやすく、逆に狭すぎると、傘の製造工程の全体像を伝えきれません。その点、Sigma 35mm F1.4 DG II | Artの焦点距離は完璧です。
竹の骨組みをつくる工程や傘の表面に紙を貼り付ける作業では、職人の手の動きと周囲の状況とを同時に、的確に意図したバランスで捉えられます。
広すぎもせず、狭すぎもしないその視野は、観る者にその場にいるかのような没入感を与え、まるでその繊細な職人技を目の当たりにするような体験をもたらしてくれます。

このレンズの最大の強みのひとつである開放F値1.4という明るさは、油紙傘を作る工程の細かなディテールを捉える際に、優れた表現力を発揮しました。

工房はやや雑然としていたため、私は主に絞り開放で撮影を行いました。そうすることで、職人の指先の繊細な動きや、傘の骨組みの緻密な構造を際立たせることができました。
ピント面は被写体を的確に捉え、一方でアウトフォーカスの部分は柔らかく滑らかに溶けていく―。
そのシャープネスとボケ味が織りなす明瞭かつ柔らかなコントラストが、写真に豊かな深みと奥行きをもたらしました。

Sigma 35mm F1.4 DG II | Artはオートフォーカス性能においても私の期待をはるかに上回る結果であったことにも一言触れておくべきでしょう。
伝統工芸である油紙傘の製作には長時間の工程が伴う一方で、要となる動作の多くは一瞬のうちに行われます。竹を細く裂いて傘の骨を作る工程や、その竹に細い糸を巻き付けて骨組みを作る作業、あるいはハサミで傘の縁を正確に切りそろえていく所作。
こうした決定的な瞬間を逃さず撮影するためには、素早く高精度なフォーカシングが不可欠です。

Sigma 35mm F1.4 DG II | ArtにはSigmaの高速かつ高精度なフォーカス性能を発揮する新世代のオートフォーカスシステムが搭載されており、F1.4の絞り開放での撮影でも、優れた安定感で被写体を捉えてくれました。

雨の日の室内という光量の少ない環境で、私は糸で竹を繋ぎ合わせる工程を連写で撮影しました。
職人の手は素早く前後の動きを繰り返していましたが、レンズは針と糸の軌跡を確実に捉え続け、その細かな所作までをくっきりと精緻に描き出してくれました。

このレンズの優れた点は高精度のオートフォーカス性能だけではありません。画質も非常に素晴らしいものでした。絞り込むにつれて解像度はさらに高まり、紙ならではの繊維の質感や、骨組みに使われる竹の表情、傘の表面の微妙な色調のうつろいまで、驚くほどの繊細さで描き出すことができました。
画面中心から周辺に至るまで、シャープネスが保たれます。さらに、フレア耐性も非常に高いため屋外で逆光のもとで撮影した場合でも、クリアで透明感のある画質が実現できました。

IMPRESSION

今回の撮影では、Sigma BFとSigma 35mm F1.4 DG II | Artの組み合わせで、静止画だけでなく動画の撮影も行いました。前景と背景の間でフォーカスを移動させても、このレンズはフォーカスブリージングがほとんど発生せず、動画撮影への最適化という点でも、Sigmaのレンズは配慮が徹底されていることを物語っていると感じました。

また、静止画と動画いずれも、Sigma BFに搭載されているカラーモードのひとつであるWarm Goldで撮影しています。このカラーモードは、今回の撮影現場の雰囲気を伝えるのに最適だったと思います。

さらに持ち運びやすさという点でも、Sigma 35mm F1.4 DG II | Artは嬉しい驚きをもたらしてくれました。先代の35mm F1.4レンズと比べて大幅に小型軽量化されており、長時間にわたる手持ちの撮影でも疲れを感じることはありませんでした。

油紙傘の工房は決して広くはなかったので、撮影中はこまめに立ち位置やアングルを変える必要がありましたが、Sigmaのカメラとレンズによる軽量なセットアップのおかげで身軽に動きながら、柔軟に撮影を続けることができました。
屋外で撮影する際にもカメラバッグに無理なく収納でき、持ち運びの面でも扱いやすさを実感しました。

さらに、フォーカスリングや絞りリングは適度なトルク感があり、スムーズで洗練された操作性を備えています。マニュアル調整が必要なシーンでも、素早く正確に操作でき、撮影の効率向上にもつながりました。

江南地方の魅力は、竹林がもたらす凛とした静けさと、油紙傘に宿るやさしいぬくもりにあります。Sigma 35mm F1.4 DG II | Artは、光と色彩を正確に写し取るだけでなく、その背後にある手仕事の痕跡と、それを献身的に支える職人たちの想いを留めてくれるレンズでした。

人々の営みを情景とともに記録する写真家にとって、このレンズは間違いなく素晴らしい選択となるでしょう。卓越した描写性能と安定したオートフォーカス性能は、今回の私の撮影を力強く支えてくれました。

BEHIND THE SCENES

ABOUT

杜立超|Du Lichao
写真家

杜立超(Du Lichao)は中国・江南地方 杭州を拠点に活動するフォトグラファー。10年以上にわたるメディア向け写真撮影の経験をもち、これまで複数のメディアで写真ディレクターを務めてきた。現在は杭州で自身の商業写真スタジオを運営し、ファッションや自動車、空間設計など、国内外の様々なブランドクライアントに向けた撮影を行う。

さらに、商業写真の活動と並行して、アート写真家としての制作にも取り組んでおり、色彩美を強く意識した独自のスタイルを追求している。