第31回:メキシコ国境沿いのアリゾナ州、Ajoという町。
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。 91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

白い教会、その周りにはパームツリー。
海岸で見かけるような光景は、メキシコまで南へ40マイル(64km)の町、アリゾナ州のAjo(アーホ)。Ajoは、スペイン語でにんにく。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:13 mm

カリフォルニア州から州間高速道路10号線を東に走り、アリゾナ州のフェニックスまであと30マイル(48km)と迫った辺りで州道85線に乗り換え南下する。初めて走る道は上りも下りもなく、周囲は起伏がない平らな土地が広がっていた。州間高速道路8号線を越え、Ajoまで32マイル(51km)、メキシコまで71マイル(114km)のサインの手前に屋根だけの建物が建っている。私はトタン屋根の下に入り、米空軍の爆撃の練習に使用されている広大な土地と空を見渡した。ソノラ砂漠(Sonoran Desert)の一部であるアリゾナ州南部は、国立野生生物保護区、国立史跡と共に米空軍管轄の土地が隣接した特殊な地域である。

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バスの停留場か土産屋のようなトタン屋根の建物が、ぽつんと荒野に建っていた。
モーターホームが後方に見える。冬の寒さを逃れ、暖かいアリゾナ州南部を長期間滞在する人は多い。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:13 mm

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金属板に彫られた地図と文字が、陽の光に反射して読み取りづらい。
金属版を支える錆びた2本のポールは、必要以上に太く力強く、特殊な地だと感じた。
彩度を落とすと、錆びたポールと色の無い金属板の存在感が強調された。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:24.2 mm

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この日、大きな空に流れるような雲がかかっていた。サインの影に隠れ内蔵フラッシュを発光し、
目指す町に近づいたと感じさせるサインにフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD15 + 10-20mm F3.5 EX DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm

州道85号を南に走りAjoに到着すると、それまで何も無かった道沿いに、ガソリンスタンドやモーテル等の建物が数件見え始める。私は、2件目に見たモーテルにこの夜宿泊することにした。緑のペンキで塗られたモーテルの外壁が、乾燥した土地では癒しの色に感じ、気に入ったのだった。宿泊料を前金で払い鍵をもらい、フロントの若い女性から教えてもらった町の広場、Plazaに向う。Plazaは町のはずれにあったが、ほんの一走りで到着した。町の広場前にはきれいな白い教会が2軒建っていた。

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雲が少しかかっていたが、ほぼ快晴の空を背景にした白い教会、遠くに頭だけ見えるパームツリー。
時間が止まったような静かな光景を切り取ると、この場の澄んだ空気感も同時に切り取られていた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:147 mm

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パームツリー越しに、陽の光にまぶしい白い教会を見る。
デジタルカメラは、外壁の表面を手に触れられる距離にあるかのようにシャープに描写する。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1000秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:157 mm

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白い教会も美しいが、ストリートサインもまた味のある存在だった。 大口径レンズで、ストリートサインにフォーカスすると、背景である教会の存在感も強調された。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F4.5 | 焦点距離:50 mm

私はPlazaから白い教会の横を通り南西へ少し走り丘を上り、廃鉱になった銅鉱山を見た後、州道85号線に戻り少し南へ走り、ダート道(Darby Well Road)に入った。

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New Corneriaとして知られた鉱山は、かつて全米で3番目の銅鉱山だった。
自然にできた噴火口のように見える露天堀(Open Pit)は、直径1-1/2 mile(2400m)、
深さ1100ft(330m)と、非常に大きい。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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州道85号線の上にかけられた設備は、もう使用されていない鉱山設備の一部なのだろうか。
フィッシュアイで大きく写した光景をモノクロームすると、時を越えて存在する光景に見えてきた。

使用機材:SIGMA SD15 + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm

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ダート道に入ると国立公園のような風景が広がっていた。大きなキャンピングカーが、サボテンが生息するソノラ砂漠に距離をおいて何台も停まっている。車から出て一休みしていると、砂漠に数日間寝泊りをしているという年配のカップルが声をかけてきて、きれいな墓地の存在を私に教えてくれた。

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メキシコによく見られるが、アメリカ国内ではこの辺りにしか見ないオルガンパイプカクタス(Organ Pipe Cactus)。
背景にキャンピングカーが見える。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:119 mm

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砂漠を散歩するフレンドリーな年配のカップル。
知らぬ土地で、旅行者同士で話をする楽しさを教えてくれた二人だった。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

墓地へ行くと小さな子供を連れた一組の家族がお墓参りに来ていた。そして帰り際、若い父親が、「エキスキューズ・ミー!帰るときにゲートを閉めて帰って下さい、お願いします」と私に伝えた。私は言われたとおりに鍵も無いゲートを閉め、小さな墓地を後にした。

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サボテンに囲まれた墓地は、白いお墓が多かった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

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午後の日差し明るく輝いていたお墓。 自然の中にある墓地に、温かさを感じた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:137 mm

ループになっているダート道は、やがて舗装道路になり、町まで戻ると日暮れはもうすぐだった。

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Plazaの裏側を歩くと、この町の住人の素朴な生活が見られた。
大口径望遠ズームレンズで、遠目からよそ者の目で撮影した。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:200 mm

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昼間はまぶしかった白い教会は、日暮れを迎えようとしていた。
彩度を大きく落とし、静かな町の一日の終わりを表現した。

使用機材:SIGMA SD15 + 30mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 |
ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm

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何も見えなかった砂漠地帯の東の空が少し赤く明るくなってきた頃、道の向こうにボーダー・パトロール(Border Patrol)の明るいライトが見えてきた。私は止められることなく検問を通過した。オルガンパイプカクタス・ナショナルモニュメントの管轄内に入ると、日の出を迎えた。モニュメントを走る州道85号を南下し、私はメキシコとの国境のコミュニティー、Lukervilleまで走った。早朝、メキシコへ行く車もアメリカに来る車もほとんどなく、土産屋もまだ閉まっていた。唯一開いていたガソリンスタンドでコーヒーを買う。パスポートを待たずに旅をしていた私は、メキシコに入ることなく北へ引き返し、オルガンパイプカクタス・ナショナルモニュメント内のビジターセンターに寄った。すれ違う車の半分以上は、ボーダー・パトロールのものだった。ビジターセンターでソノラ砂漠の自然を説明する映画を独りで観た後、再び北上すると2箇所の検問を通過した。検問所では、何処から来たのか、何の目的でここに来たのかといった簡単な質問をされた。私は写真を撮りに来たと答えて、助手席においてあるカメラを指差した。

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検問のライトは明るかった。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F3.5 | 焦点距離:112 mm

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オルガンパイプカクタス・ナショナルモニュメントで、日の出を迎える。
州道85号線沿いは、サワロ・カクタス(Saguaro)の方が多く見られた。

使用機材:SIGMA SD15 + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 |
ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:119 mm

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柵の向こうはメキシコ。 柵越し見るメキシコの青い空は、アリゾナの空と変わらない。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

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ビジターセンターに着くと、パークレンジャーがアメリカの国旗を揚げるところだった。
ボーダー・パトロールの車が何台もパーキング場に停まっていた。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:24.2 mm

ナショナルモニュメントを出ると小さなコミュニティー、Whyにあるレストランで食事をした。
レストランで働く女性にWhyの名前のいわれを訊くと、東のツーソンに繋がる道と、南のメキシコとの国境まで続く道の分かれ方がYの字に似ているからだと思うけど、本当のところは分らないと笑いながら答えた。

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メキシコとの国境近くのコミュニティー、Whyのレストランで食べたメキシコ料理。
窓から差し込む日差しは強く、室内にいても私はサングラスをかけていた。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

Ajoに戻ると州道85号を走らず、町の外れを走る道を北に進んだ。乾燥して緑が少ない地にゴルフ場が見えたので立ち寄ってみた。ゴルフ場のレストランに入ると、陽気な老人たちの笑い声が響いてた。アリゾナ州南部の明るい青空がよく似合う明るい引退者ホームのようだった。

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Ajoに戻ると、看板もない工場のゲートが目に付いた。
外付けフラッシュEF-140 DGを発光し背景を落とし、何を精製しているのか分らないミステリアスな工場を描写した。

使用機材:SIGMA DP2s | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ |
シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:24.2 mm

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素朴なゴルフ場。
強い日差の下でプレイする老人たち。 ここでは私も若者になれそうだった。

使用機材:SIGMA DP1x | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:16.6 mm

ゴルフ場の駐車場の出口に、スペイン語でAdiós Amigoと書かれた看板が立っていた。
私は町の中心地に戻ることなく、メキシコに近い町、Ajoに別れを告げ北上した。

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サインを支えるポールが緑に塗られ、サボテンが描かれていた。
大口径レンズで、白く塗られた木のサインを切り抜くと、木の表面の質感が手で触っているように、リアルに写されていた。

使用機材:SIGMA SD15 + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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