シグブラ
第11回:分断されたハイキングコースブラブラ

分断されたハイキングコースブラブラ

June 28, 2013

多摩川と浅川が合流するあたりから八王子方面に向かって、かつては大いに賑わった尾根沿いのハイキングコースが存在する。昭和の半ばには多くのハイカーが歩いた路は、現在は静かで人も少なく、カメラを持ってブラリと訪れるのにいい感じの散策路になっていた。

ハイキングコース起点となる高幡不動に向けて参道を歩く。駅前から延びる道は、飲食店や土産物屋が軒を連ねている。食べ物のいい香りに誘惑されそうになるが、正面に金剛寺高幡不動の五重塔が見えてきたのでなんとか踏みとどまった。

境内は骨董市が開かれていて人でごった返していた。年代物の陶器や家具に混じって、どうみてもアヤシイ軍装品やアクセサリーを広げている店もある。しかしこういう店を冷やかすのが醍醐味というものだ。

骨董市を抜けて裏山に取り付く。大師の像が山頂へのルートに沿って鎮座している。ひとつひとつが札所になっているようだ。大師像の様々な表情を楽しんで、ある程度高度を稼いだところでコースは「かたらいの路」という現存するルートになる。ここがかつて賑わったハイキングコースの東端だ。しばらく歩いてみたが地元の人が散策している程度の人出であった。この分なら今日は静かな尾根歩きが楽しめるに違いない。 コースはいったん住宅街を通ってから多摩動物公園に沿って森の中を行く。フェンスの向こうには様々な動物が暮らす檻が見える。家族連れがベンチに座ってお弁当を食べている様子も見えた。まさか自分たちが動物たちと一緒にフェンスの外から見られているとは思うまい。途中オランウータンの空中散歩コースが空を横切る。タイミングがいいと、彼らがワイヤーを伝って移動するのを見物することができるようだ。

尾根はとても眺めがいい。初夏でさえかなりの景色を楽しめるので、冬場はかなり景色が期待できそうだ。"富士隠し"と呼ばれる大室山が富士山の大部分を覆い隠しているのがよく見える。コースは緩やかなアップダウンを繰り返し左右に首を振る。そのたびにニュータウンが木々の向こうに拡がる。

尾根周辺は鳥や昆虫、木々も種類が豊富だ。開発によって住みかを奪われつつあるほ乳類も細々と生きながらえているようだ。途中、真新しい公園墓地があった。木々を切り倒し丘を削り、太陽の光が燦々と注ぐようになった斜面には、ピカピカの墓石が延々と立ち並ぶ。人間は死んでからも自然をこの世から消去してしまう。死者はこれで喜ぶのだろうか、と考えながらその光景を見つめた。

コースは廃墟となった遊園地をかすめ、緑地公園を通りキャンパスを貫く。ルート上を歩いていると緑が豊富に感じるが、ふと視線を傍らに移すと、それはほんの一部分に過ぎないということがよくわかる。土の上をとても長い距離を歩いた気がするが、たかだか10キロちょっとでしかない。

途中ハイキングコースは分断されている。昔は通り抜けられたようだが、現在は住宅地を経由しないと完抜できないようだ。展望の良いその箇所では火事で焼け落ちたレストランが真っ黒な姿を晒している。裏には錆落ち土に還る寸前のドイツ車が放置されていた。

分断されたもう一方のハイキングコースを歩く。山鳥料理を出す山小屋風の老舗を過ぎて、尾根道はやがて谷戸をそのまま活かした公園に合流する。あとは傾斜に従って下りていけば鉄道の駅に到着だ。森の中はヒンヤリとして涼しかったが、住宅が建ち並ぶ街道沿いに近づくにつれ、蒸し暑く空気が澱んでいるのを感じた。もう少しするとハイキングコースは蝉の歌声が響き渡るのだろうなと思いつつ、次のブラブラは涼しいところにしよう、と考えたのであった。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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