シグブラ
第20回:瀬戸内のウサギ島をブラブラ

瀬戸内のウサギ島をブラブラ

November 15, 2013

久しぶりに広島から呉線に乗る。まだ暗いうちから走り始めた列車が目的地に着く頃にはすっかり朝になっていた。しかし天気はあいにくどんよりとした雨交じり。小さな駅から歩いてフェリー乗り場に向かう。瀬戸内の海に近づくとだんだん空が明るくなり、気温も上昇してきた。どうやら波止場にもぽつりぽつりと乗船客が集まり始めているようだ。

忠海港からフェリーで大久野島に渡る。大久野島はウサギの楽園として知られ、多くのウサギ好きが集まることで有名だ。島の至る所にウサギがいて人を恐れず愛嬌を振りまいているらしい。乗客を観察してみると、大きなバッグに野菜を詰めた男性や、以前訪れた際に撮ったウサギの写真をスマートフォンで見ている女性たちがいた。「なるほど、ウサギマニアに人気のようだ」、と思っていると、ガクンと揺れてフェリーが離岸した。

20分程度瀬戸内の航海を楽しんで、大久野島に上陸した。桟橋から歩き出すとさっそくウサギのお出迎えだ。その数も数羽ではない。数十羽だ。足下にぴょんぴょんとウサギが寄ってくるので、足で踏んでしまわないようにするのが大変なくらいである。この島は今ではウサギ島として有名だが、実は戦時中、化学兵器を製造していた「毒ガス島」としての重い歴史があるのだ。島の外周路を歩き出すと、その過去を解説する解説板が立っていた。

大久野島は小さい島で、1時間ちょっとあれば外周路を歩いて散策可能なほど。ところどころに毒ガス貯蔵庫跡や砲台跡が残っていて当時の重い歴史を感じさせるが、その前をウサギたちが平和そうに飛び跳ねている様はとてもシュールだ。

時折降る小雨の中、島の外周路を歩いて行く。海ではシーカヤッカーがツーリング中のようだ。潮の流れが早く、パドリングをしてもほとんど前に進んでいないように見える。後ろに流されているのではないか?と思ってしまうほどだ。

この島は桟橋周辺や宿泊施設周辺以外にほとんど人がいない。ウサギもエサを求めてかその周辺に多いが、島の反対側の寂しい場所にもウサギがいた。藪の中から人間を見つけたウサギがピョンピョンと寄ってくるが、エサを持っていないことがわかるとつまらなそうに引き返していく。日頃よく接するイヌやネコと違ってコミュニケーションが取りにくい感じである(笑)。

ほぼ島を一周し発電所跡にやってきた。毒ガス製造のための電力をここで作っていたようだが今はただの廃墟である。外壁は枯れた蔦が絡まり、ガラスがない金属製の窓枠がひしゃげている。人間が立ち入れない廃墟内はウサギが自由に跳ね回っていた。

しかしなぜここはウサギがこんなにいるのだろうか。毒ガス製造をしていた頃にも実験用として島にウサギはいたようだが、終戦後に放たれた数羽のウサギが繁殖して、300羽程度に増えたということらしい。天敵がいないのと、温暖な気候のため増え続けているようだ。

発電所跡の前に位置する桟橋に立つ。対岸を眺めていたら雨が強く降り出してきた。足下にいたウサギたちが一斉に茂みに逃げ込んでいった。どうやら雨は苦手のようだ。行きの船で大量の野菜をバッグに詰めていた男性も、バッグを空にして桟橋にやってきた。野菜は全部エサとしてウサギに与えたらしい。毒ガスとウサギ、という奇妙なコントラストを反芻しながら帰りの船に乗り込んだ。「次のブラブラはどこにしようか」と考えながら、戦時中軍事機密上地図からも消されていた島をあとにした。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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