第68回:ラッセン火山国立公園の夏の終わり(後編)
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第68回:ラッセン火山国立公園の夏の終わり(後編)

北カリフォルニア、ラッセン火山国立公園(Lassen Volcanic National Park)北東部の隅に位置し、主に鉄やマグネシウムが豊富な黒い玄武岩質溶岩によって形成されているCinder Cone(シンダー・コーン、噴石丘)。ハイカーが黒い小山を懸命に登り、足元から強い風で砂煙が上がった一瞬の光景を大口径望遠ズームレンズで遠くから捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/800秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:150 mm

ラッセン火山国立公園には5箇所の出入り口があり、公園のメイン道路は北西と南西の出入り口を繋いでいる。南西の出入り口から公園に入り、メイン道路を走りながらパークレンジャーが勧めてくれたスポットに立ち寄り、北西の出入り口付近のマンザニータ湖キャンプ場に前夜宿泊した私は、アクティブな火山地帯であることも忘れ熟睡した。この朝、宿泊客がまだ寝静まり、空がまだ暗いうちにテントをたたみキャンプ場を後にした。公園北東部のシンダー・コーン(噴石丘)に行くため、いったん公園から出て北上し東へ向って走ると空が、少しづつ明るくなり、北東部から公園内に入る前に陽が昇った。前日とは違いこの日は朝から陽の光が眩しい。

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陽が昇る前の美しい朝焼けに思わず車を停め、魚眼レンズでさわやかな朝の空気と共に空を大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:10 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.70 MB

山火事で焦げている木々の間を通り抜けると道は行き止まり、溶岩に囲まれたビュート湖(Butte Lake)に到着する。湖畔のキャンプ場には宿泊客は少なく、シンダー・コーンまでのトレールのスタート地点でもある駐車場には数台の車が停まっているが人影はない。お湯を沸かしコーヒーを入れ簡単な朝食を取った後、最小限のカメラ機材を入れたバックを背負い、水筒に水をたっぷり入れ、ガイドマップに往復3時間と書かれたトレールを歩き出す。

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トレールのスタート地点でもある標高約1,850mの湖面に朝陽が眩しく反射する。内蔵フラッシュを発光させ、影になったサインを浮き上がらせる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:18 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.00 MB

火山灰に覆われた土地にたくさんの松(Jeffrey Pine)が生息し、その林の中を歩いて行くと地面は砂地に変わり、まるで黒い砂丘の上を歩いているように感じる。穏やかに上っていくトレールをさらに進み、松林から抜け出すとシンダー・コーンがぽこんと現れる。大きな砂場につくられた砂山のようなシンダー・コーンの下まで歩いて行くと、カップルが砂地に苦戦しながら急な上り坂を登っている。私も二人に続いて登り始めた。何度も休みながら登り切ると、下からでは想像できない大きな火口があり、火口の淵にたどり着いていた。標高2,105mの火口の淵には強い西風が吹き、体ごと吹き飛ばされそうに感じる。

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周囲から約230m盛り上がった黒い小山、シンダー・コーン。資料では約350年前に形成されたとあるが、何十万年、何億前に形成されたと言われても私にはそう思えてくる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.68 MB

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シンダー・コーンを半分ほど登った辺りから東を見ると、1本の木が斜面に立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:88 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.44 MB

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南西南の方角には山肌をあらわにした雪のないラッセン山が見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/1250秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:58 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.07 MB

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火口の淵を歩きながら西側を見下ろす。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:62 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.54 MB

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ぽっかり開いたように見える火口から登り戻って来た女性が、連れの男性が登って来るのを見守っていた。女性は、シンダー・コーンの登りより火口の下からの登りの方がきつかったと言った。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:23 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.26 MB

予定を立ててくれた女性パークレンジャーが、暑さで疲れ果てて火口の底までは行かなかったと言ったが、この朝はじっとしていると肌寒いぐらいだったので、登りのことも考えず迷わず火口を下り始めた。砂に砂利が混ざった斜面は、一歩足を前に出すと体の半分が落ちて行き、あっという間に火口の底に下り立った。

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大きく口を開けた直径300m火口に入って行く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.13 MB

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火口の底に下るとほとんど無風で気温も高かった。火口底の石山に私もひとつ石を積んだが、少しづつ積み上げられ、どこまで大きくなっていくのだろうか。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.49 MB

火口の底からの登りは砂利の斜面できつかったが、火口の底で十分休んだので火口の淵まで休むことなく戻り、シンダー・コーンを早歩きで下り落ちた。トレールの帰りは気温が上がり、汗をかきながらゆっくりと時間をかけて戻る。

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押し寄せて来るように見える溶岩の横を歩く。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.89 MB

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トレールのスタート地点に戻ると、1770年代にシンダーコーンから溶岩流が流れ込んだビュート湖と空が青く輝き、黒い溶岩もまた輝いていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.76 MB

シンダー・コーンまでのトレールを歩いた後、公園から出て公園の南東部の出入り口、ワーナーバレー(Warner Valley)に向う。保安林として保護されていたラッセン地域は、セオドア・ルーズベルト大統領により、1907年5月、ラッセン山とシンダー・コーンが国定公園に指定され、1916年8月9日、ラッセン山とシンダー・コーンの周辺は国立公園に指定され、大きな森は公園の外に広がりどこまでも続いている。アルマナー湖(Lake Almanor)の北岸を渡り、小さなタウン、チェスター(Chester)から公園を目指し北上する。

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ラッセン火山国立公園の外は国立森林公園に指定され、森の中に敷かれた1本の線路を見つけた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.44 MB

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公園に入る前も広範囲に渡り、壮大な景色が望めるワナーバレー。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.75 MB

深い森の中を走って行くとなかなか目的地であるデビルズ・キッチン・トレール(Devils Kitchen Trail)のスタート地点が見つけられない。公園入り口付近のキャンプ場だと思って通過したキャンプ場に戻り、宿泊していた老夫婦に尋ねると、道を間違えてまだ公園内に入ってはいなかった事に気がついた。森の中でのんびりとしていた老夫婦は、慌しく去っていく私に「グッドラック」と言って手を振り、私も大きく手を振った。公園内に入りトレールのスタート地点に着くと、もう午後4時になろうとしていた。車のシートの後に4丁のライフルを積み、腰には大型のピストルを下げているパトロールに来たパークレンジャーに、往復7km弱のトレールを歩く時間はまだ残されているかと尋ねると、「君なら大丈夫だよ」と言われ、すぐにトレールを歩き出す。

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「美しいワーナーバレーの草原と森を通り抜け、ラッセンで2番目に大きな熱水地帯を体験しましょう。」と、国立公園の公式サイトに紹介されているトレール。西日に輝いていた草原にカメラを向けると、1本1本の草が読み取れ、木道を歩いた音が蘇るような気がする写真が残されていた。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:28.42 MB

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草原地帯から森に入る手前で見たミュール・ジカ(Mule deer)。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.49 MB

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暗い森の中を歩いて行くと雷が落ちたのか、焼け焦げた木がありレンズを向ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-50mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:28 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.99 MB

草原で1組のカップルに出会った後、森の中を急いで歩き白い蒸気が上がっているデビルズ・キッチンにたどり着くと、山に囲まれた熱水地帯は陽の光を失いかけていた。「公園内最大のバンパス・ヘルより訪れる人が少なく、火山ガスの噴気孔から吹き出る蒸気にも近寄れますよ」と言ったビジターセンターでのパークレンジャーの言葉通り、このとき熱水地帯にいた人間は私ひとりだけだった。

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クリーク越しに噴気孔から吹き出る蒸気を見る。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:19.11 MB

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標高約1,800mの硫化水素が立ちこめるデビルズ・キッチン。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.29 MB

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熱水地帯(泡立つ温泉)にこの日最後の陽の光が差し込む光景。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:127 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.94 MB

陽のあるうちに見られたデビルズ・キッチンからの帰り道、熊も生息する森の中を急いで歩き抜け、夕方の陽に輝く草原に戻る。

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傾いた陽で長くなった自分の影と草原。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.50 MB

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小さなクリークに小さな水車。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:18.31 MB

デビルズ・キッチンへのトレールから別れて行くもうひとつの熱水地帯は近かったが、パークレンジャーの「あの辺りは熊がよく出るから気をつけてね!」と言った言葉を思い出し、日暮れ近い駐車場に戻ると、まだ小さい子供3人を連れた家族が駐車場からトレールに向うところだった。「もう時間がないのでは?」と話しかけると、「途中まで行ってすぐに戻るから大丈夫ですよ」と父親が返した。楽しそうにトレールを歩き始めた家族の後姿を見ていると、雪が沢山残る来春にこの地を歩きたくなった。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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