押本龍一－私の出会う光景－第74回：冬のマリブ周辺

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

久しぶりに暖かい冬の日となったマリブ・サーフライダー・ビーチ（Malibu Surfrider Beach）の朝。高倍率超望遠ズームレンズで気に入った焦点距離にすばやくズーミングし、潮が引いた砂浜に群がるカモメ、海から砂浜に上がってきたサーファー、海鳥を追い砂浜を歩く二人連れを捉える。

夜明け前、インターステートフリーウェイ10を西へ走り、カーブした短いトンネルを潜り抜け、サンタモニカ湾沿いを9kmほど走ると東の空が白々と明るくなっていた。トパンガ・キャニオン・ロード（Topanga Canyon Road）との交差点近くのパシフィック・コースト・ハイウェイ（PCH）沿いに車を停めて外に出てみると、海風もさほど冷たく感じない。このところ南カリフォルニアにしては寒い日が続いていたが、この日からしばらくは快晴が続き、気温も上がるとの予報は信じてよさそうだと思う。日中はとても交通量が多い場所だが、日曜日の早朝は車は少なく、波の音を聞きながら私はカメラを東へ向け三脚に据えた。

この辺りから太平洋岸をしばらく東西に走るPCHからサンタモニカ湾を振り返るように見る。画面中央付近の灯りはサンタモニカ・ピア。

明るくなってきたサンタモニカ湾沿いをさらに約9km西へ走り、マリブ・ピアに到着すると陽が昇る直前だった。私は路肩に車を停め日の出を待った。サンタモニカ湾のさらに向こうの陸地から陽は昇ったが、陽の光は眩しくて陸地の風景はよく見えず、陽は水平線の彼方から昇ったように見えた。ビーチに下りる階段で暖かい朝日を浴びて本を読む年配の女性に、「いい朝ですね」と声をかけた後、気持ちのいい海風に吹かれ桟橋の先まで歩いた。

眩しくて直視できない太陽を背景にしたカモメもよく見えなかった。

暖かい朝日を浴び本を読む年配の女性の後姿と桟橋。朝の平和な光景をコンパクトなカメラに収める。

桟橋の先端近くで、ライフガードのボートを吊るすピンと張られた白いロープに朝の空気を感じる。

桟橋先端の2階建ての建物に上がる階段。「青い空と真っ白にペイントされた階段」と、私の頭の中には記憶されたが、写された画像は階段の汚れと表面のディテールが鮮明に記録されていた。

桟橋先端には3人の釣り人がいて1人の釣り人は、「Halibut（オヒョウ）を狙っているけど、釣れるならなんでもいいよ」という。桟橋の先端から戻ろうとすると、鳴き声を上げた鳥の群れが桟橋に近づいて来るのが見え、釣り人は、「イルカだよ、イルカ、いい写真撮れるかもよ！」と、日焼けした顔で大きく私に笑いかけた。

桟橋先端の2階から見下ろすと海面の色が深みのある色に見えた。

思いがけない海のショーだった。あまりにも数の多い鳥に、肉眼ではイルカはよく見えなかったが、写された画像にはジャンプするイルカの姿が残されていた。

以前はサーフライダー・ビーチとして知られたマリブ・ピアの隣に広がるマリブラグーン・ステートビーチ（Malibu Lagoon State Beach）に、少し車を移動し砂浜を歩いてみた。ステートビーチの有料駐車場を利用せず多くの人は道沿いに車を停めるため、駐車スペースを道沿いに見つけるのは困難な場所だが、この朝はまだ車の数も少なかった。3つの波に乗れば砂浜近くまで300 yards（275m）以上の波乗りが可能だと言われ、世界中からサファーが集まる砂浜に出る。この朝見かけたサーファーには中年男性が多く、海から上がって来た年配の男性とすれ違う。「暖かい朝ですね」と声をかけると、「今日はそうなるだろうけど、今俺は寒いよ」といい、シャワーに向って走って行った。サーフライダー・ビーチからはさらに西へ走り、大きな砂浜のズマ・ビーチ（Zuma Beach）に立ち寄った。

シャワーも冷たいはずだが、サーフボードを荒い流しそれから長々とシャワーを浴びていた。

砂浜に車椅子が置いてあった。ビーチを去るときに足が不自由な中年男性のサーファーが、この車椅子で自力で駐車場に戻って来たのを見た。

ビーチに1時間半いた後車に戻ると、道沿いにはびっしりと車が停まり、サイクリングを楽しむ人が速いスピードで通り過ぎた。

大きな砂浜が続くズマ・ビーチで冬とは思えない光景。海水もきれいで家族連れも多い。

ズマ・ビーチからはマリブの境界線から出て少し西へ行き、海岸から離れてサンタモニカ・マウンテンを上って行った。バイク乗りが集まるレストランの横からヨーバ・ブエーナ・ロード（Yerba Buena Road）を上り、数回歩いたことがあるトレールに向かう。トレール・ヘッドの土の駐車場に着くと、車を停める場所がないぐらいのたくさんの車が停まっている。数回訪れたときは平日だったせいもあるが、停まる車はいつも数台だったので、近年のハイキングブームを感じながら少し戻って狭い山道の路肩に車を停め、トレールを歩き出す。歩き始めのトレールは登りがきつく、強い陽射しに早くも疲れを感じたが、この辺りで一番高いピークであるサンド・ストーン・ピークに登りつくと、爽やかな風に吹かれ360度の眺めに疲れを忘れる。サンド・ストーン・ピークからは急な上りはなくなり、眺めのいいもうひとつのポイントであるインスピレーション・ポイントで一休みする。

標高約950mのサンド・ストーン・ピーク（Sandstone Peak）。超広角ズームレンズで、雄大で清々しい風景を大きく撮り込む。

インスピレーション・ポイントに来ると、ここから見える360度の眺めが記されていた。強い陽射し、雨、風にさらされたその質感に惹かれマクロレンズを向けた。

インスピレーション・ポイントのすぐ横の岩に男性が登り、太平洋からの風に気持ち良さそうに吹かれていた。

トレールが渓谷に差し掛かると、斜面の岩の上に置かれたように座る大きな岩が見え、少し歩いて行くと人の声が渓谷に響いている。岩壁をよく見るとロッククライミングをする人の姿が見えた。

Balanced Rock。世界的に有名な岩ではないが、有名な国立公園で見たどの岩にも負けない存在感を感じ、低木に囲まれたトレールからレンズを向ける。

Echo Cliffsで上半身裸でヘルメットも被っていない2人のロッククライマーの楽しそうな会話が渓谷にこだましていた。

約10kmのトレールから戻ると陽はだいぶ傾き、満車だったほこりっぽい駐車場にはまだ半分以上の車が停まっていた。私は上って来た急なカーブが多い道を下り、海辺に戻った。

雨の多い冬は、崩れ落ちてくる岩で通行止めになる道。傾いた陽の光で路面が光っていた。

バイク乗りに人気のレストランに、サンセットが近い陽の光が当る。

私はサンセットを眺めるため、東へ少し走りレオ・キャリロ・ステート・ビーチ（Leo Carrillo State Beach）でサンセットを迎えた。黄金色に染まった海にイルカが見え、この日の朝、マリブ・ピアからけたたましい鳥の鳴き声と共に微かに見えたイルカとは違い、一日の終わりにふさわしく静かに泳いでいるように見えた。

サンセットを見ようと多くの人々が海岸に集まって来ていた。

ライフガードはいなかったが、代わりに若い女性がサンセットを見守っていた。

黄金色に染まった海にイルカが見えた。高倍率超望遠ズームレンズをいっぱいに伸ばし、シャッターを押す。

私は微かに夕陽の明かりが残る日の出を迎えたマリブ・ピアに立ち寄り、PCHを東へ戻った。

朝と全く違う表情のマリブ・ピア。

帰宅すると、久しぶりに南カリフォルニアらしく暖かくなった冬の日曜日に海辺と山を歩いた私の顔は久しぶりに真っ赤に日焼けしていた。シャワーを浴びた後、マリブ周辺に多くの人が集まるのも十分に納得し、久しぶりに美味いビールを飲んだ。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ（X3F）を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。