第90回:夏のザイオン渓谷(Zion Canyon)へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第90回:夏のザイオン渓谷(Zion Canyon)へ

大きな渓谷は奥へ行くと幅が狭まくなり、ついには川幅と同じになった。8月中旬、ユタ州南部のザイオン渓谷は暑く、ナロウズ(The Narrows)と呼ばれるバージン・リバー(Virgin River)によって鋭く刻まれた狭い渓谷には、暑さを逃れ多くの人々が集まっていた。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:30 mm

朝の9時、強烈な昼光を浴びた砂漠の巨大都市ラスベガスまで北上すると気温は既に30度を超えている。ネオンがギラギラと輝く夜と比べると間が抜けて見えるホテル群を横目に、冷房を好まない私は、窓を全開にして熱風を頬に受けながらインターステート・フリーウェイ15号を北東へ走った。アリゾナ州北西のコーナーを少しだけ舐めるように走って行くと、大きなトラックが路肩に横転しドライバーが途方にくれている。一歩間違えば大事故になりかねない山道を走り抜けてユタ州に入りフリーウェイを降りる。小さな町ラ・バーキン(La Verkin)のガソリンスタンドで氷を買い、ビールを入れたクーラーボックスに砕いて入れザイオン渓谷に向った。岩壁が迫る渓谷に入るとキャンプ場に直行し、木影があるサイトにテントを張る。

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ザイオン国立公園のサウス・エントランスから近いサウス・キャンプ場で見かけた鹿が、実にうまそうにクリークの水を飲んでいた。

SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.52 MB

テントを張り終わると全身汗だくだった。あまりの暑さに翌朝に予定していた川歩きを早々行うことにし、ビジターセンターからシャトルバスに乗り、ザイオン渓谷の一番奥(Temple of Sinawava)で下車する。リバーサイド・ウォークと呼ばれる良く整備されたトレールを1.8㎞ほど歩き、ナロウズと呼ばれる渓谷が狭まった地点に到着した。数年前の秋、この川を歩いた時は水温が低く、歩き始めてすぐに引き返したが、夏の川は暑さを忘れるのにちょうどいい水温で、多くの人が楽しそうに川を歩いていた。

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シャトルバスで行ける一番奥からザイオン渓谷を眺める。午後2時半、西の岩壁のほとんどが既に影になり、ドラマチックな風景だった。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.50 MB

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11月から5月までは水温が低く、ウェットスーツが必要なナロウズ。この日は非常に暑かったが、水に浸かって歩く間は暑さを忘れた。

SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.15 MB

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水が滴り流れる岩壁をバージン・リバーまで下りてきたロッククライマー。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:日陰 | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:14.50 MB

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ナロウズには、川幅が狭く水から逃れて歩く部分もあった。春先から6月までは雪解け水で水かさが増し立ち入り禁止になることもあるが、この日は何の心配もなく安心して歩けた。

SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.4秒 | 絞り値:F22.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.31 MB

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流れが穏やかに見える部分でも思った以上に足を取られ、水の流れの強さに驚く。

SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1.0秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:9 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.03 MB

川底は岩がゴロゴロと転がり、川の流れは見た目以上に強く何度か転びそうになる。腰まで浸かる部分には近づかず気をつけて歩くが、知らぬ間にカメラバックの底は濡れていた。陽が落ちる前にキャンプ場に戻りたかった私は、思ったより奥には行けずにナロウズを後にした。川から上がりリバーサイド・ウォークを歩いてシャトルバスに乗る地点に戻ると、渓谷は一部の東の岩壁を除き直射日光はもう届かず、まだ青い空には月が浮かび、影絵のように見えた。帰りのシャトルバスはビジターセンターへ戻る人で満席で、キャンプ場に戻ると空いているサイトはひとつも見なかった。1本の木の下に小さなテントを張ったサイトに戻り、クーラーボックスから氷付けになった缶ビールを取り出し乾いた喉に流し込む。この日が暑かった分だけ冷え切ったビールは格別の味がし、暮れてゆく夜をゆっくりと楽しんだ。

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午後2時半に撮影した(写真3)と同じ場所からザイオン渓谷を撮影し、約4時間の時の流れを記録する。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.20 MB

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キャンプ場から見るウオッチマン(Watchman)と呼ばれる岩山。上部は赤く染まり、この後すぐに光を失った。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.01 MB

2.5億年前は浅い海の底だったと考えられている海抜1,200mのキャンプ場は、陽が沈むと日中の暑さとは打って変り、夜風が心地良くキャンプには最高の夜だった。翌朝、南北にのびるザイオン渓谷から渓谷の東へ向った。人気のある国立公園の早朝、すれ違う車はほとんどなく、砂岩の壁に囲まれた渓谷から出てジグザグの道を上って行く。坂を上りトンネルを通り抜け、数年前に1頭のビックホーンを望遠レンズで捉えた付近を走るが、ビックホーンの姿はどこにもない。太陽が雲の隙間から顔を出すと鮮やかな砂岩がさらに色づいた。

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雲の合間から差し込む陽の光が、砂岩を描写する。

SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.01 MB

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朝陽でさらに赤くなった岩の壁は、人が積んだレンガに見えた。

SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:14.87 MB

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東の谷間から昇った太陽は、この朝しばらく雲に隠れていた。

SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:オート | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:4.14 MB

今日は縁がないと思い渓谷に向い引き返したが諦めきれずに東へ戻ると、岩山の影になった暗い草むらに1頭のビックホーンがいた。雲が動き朝陽が砂岩に照らし始めるとさらに10頭近くのビッグホーンが現れた。ビッグホーンは繁殖期を除き、オスだけの群れとメスと子供の群れと離れて行動している。残念ながらこの朝は、大きな角が生えた雄のビッグホーンは見なかった。

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脅かさないように静かに車から出て、やっと出会えたビックホーンに大口径望遠ズームレンズを向ける。

SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:300 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.93 MB

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朝の光で色鮮やかになった砂岩に、ビックホーンがシルエットになった光景。

SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.86 MB

大きな角の雄は見なかったがビッグホーンの群れに出会え、早起きした甲斐があった。キャンプ場に戻ると暑くなる前にテントを畳み、ビジターセンター側の駐車場に車を移動してシャトルバスに乗り込みザイオン渓谷内を歩いた。

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バージンリバーを渡る橋から、渓谷の北を眺める。

SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.33 MB

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バージンリバー沿いで見かけたトカゲ。近づくと逃げてしまうので、高倍率超望遠ズームレンズで捉えた。

SIGMA SD1 Merrill + APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:450 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.25 MB

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岩壁の上を涙のように水が垂れ流れているウィーピング・ロック(Weeping Rock)に立ち寄るが、垂れてくる水よりここからの景色に感動し、超広角ズームレンズで渓谷を写しこむ。

SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.16 MB

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エメラルド・プールズ・トレール(Emerald Pools Trail)のスタート地点から馬に乗ってバージンリバーを渡って行くグループを追う。

SIGMA SD1 Merrill + APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:110 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:20.67 MB

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トレールを登って行くと岩壁の上から水が流れ落ちていた。誰かが大きなじょうろで上から水をかけている様に見えた。この日の水量は多くはなかったが、乾燥した土地では大きな恵みに見える。

SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.84 MB

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岩の隙間を歩くハイカー。

SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.84 MB

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プールと言っても水溜りのような大きさだが、水面に映り込む岩壁が印象的だった。

SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.65 MB

この日は前日に増して暑くなった。エメラルド・プールズ・トレールを歩き終えると、ヒストリー・ミュージアムに立ち寄り、暑さから逃れてザイオン国立公園を解説するショートフィルムを観た後、ビジターセンター側の駐車場に戻り公園を後にした。1,000種以上の植物が生息し、67種の哺乳類、29種の爬虫類、7種の両生類、9種の魚類、207種の鳥類が住んでいるザイオン国立公園は、高い岩壁に囲まれた渓谷が人々を魅了し、暑い夏には岩壁が狭まったナロウズに大勢の人が集まってくる。いつの日か、しっかりと準備し、誰もいない雪景色のナロウズも歩いてみたいものだ。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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