第103回:春のデスヴァレーへ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第103回:春のデスヴァレーへ

デスヴァレー中央に位置する砂丘(Mesquite Flat Sand Dunes)で日の出を迎えた私は、アマルゴーサ山脈(Amargosa Range)から昇った太陽にレンズを向けた。カメラを三脚に据えてシャッターを何度も押していた女性は撮影を止め、しばらく日の出を眺めていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:17 mm

4月初旬の午後、インターステートハイウェイ15号線を北上しデスヴァレーへ向う。空はグレーの雲に覆われ風も強く天候はいいとは言えなかったが、ロサンゼルスのダウンタウンから北東に120kmほど行った辺りで太陽が出てくれた。陽光が直接届く所は明るく、雲が遮り陽光が直接届かない所は暗いコントラストの強い光景が続く。ラスベガスまで約160kmの地点に位置するベイカー(Baker)でハイウェイを下り、給油を済ませてから州道127号線を北上した。127号線はデスヴァレー・ロードと呼ばれ、通り過ぎてしまうのはもったいない風景が広がり、山に囲まれた広大な砂漠地帯の風景はデスヴァレーにいるような気にさせる。127号線からはデスヴァレーを東西に横切る州道190号線を西に行き、デスヴァレー国立公園内に入る。デスヴァレーへ東側から入るのは初めてだったが、陽が沈んで周囲の景色は何も見えず夜のキャンプ場に到着した。

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走って来た西の空をハイウェイから下りて振り返る。空に浮かぶたくさんの雲は、ふわふわした大きな綿のようでいくら眺めていても飽きなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.58 MB

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ハイウェイから下りたベイカーから50kmほど北上した辺りに来ると、西に沈んでゆく陽光が砂丘(Dumont Dunes)に長い影をつくり出す風景が見え、荒野に歩いて入りドラマチックな光景に超望遠ズームレンズを向けた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/100秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:267 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.81 MB

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陽が沈んでゆく山の向こうはデスヴァレー。超広角ズームレンズで夜になる前の空を大きく写しこむ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.40 MB

宿泊を予定していたキャンプ場に到着したのは夜9時近かった。暗いキャンプ場内を一周したが、空いたサイトはないようだった。静かな夜を楽しんでいるキャンパーの邪魔をしたくなかったので、もう一度見回ることはせず、主にキャンピングカー用で、テーブルも焚火用のファイヤーリングもなく、空きがたくさんあるのは分かっている広場のようなキャンプ場に宿泊した。私は持参した椅子に座り生野菜とナッツをつまみにワインを少し飲み、すぐに車内で眠りについた。翌朝、5時過ぎにキャンプ場を出て砂丘(Mesquite Flat Sand Dunes)へ向った。広い路肩に車を停め、ライトなしで薄暗い砂丘を歩きだす。砂丘の奥の方にはすでにカメラを構えた2人の人間を見たが、この朝、砂丘の一番高い所まで歩いて登ったのは私だけだった。

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この朝一番早く砂丘に来たと思われる男性が、光と影の世界にレンズを向けていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F3.2 | 焦点距離:147 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.63 MB

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高い所を目指して歩いて来た私の足跡。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:17 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:8.26 MB

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朝陽に映える砂の模様。フィルムグレインの大きさと粗さを上げて砂の質感を強調した。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:34 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:15.49 MB

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砂の優しさを感じる光景だった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:200 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.19 MB

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朝陽がつくる光と影の世界。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 85mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:85 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.96 MB

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遠い昔、湖底だった跡が残る粘土質の土壌。ヒビ割れた多角形の模様が光っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30mm F1.4 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:12.69 MB

朝陽に照らされた砂丘の光と影の世界は、どこを見ても美しかった。9時を過ぎると気温が上がりはじめ、砂に足を取られながら歩き車に戻った。砂丘からはデスヴァレーを南に移動しながら幾つかのポイントに立ち寄ったが、気温がどんどん上がり、夜中にスリーシーズン用の寝袋に寝ていたが寒くてジャケットを着込んだのが信じられない暑さになった。

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砂丘から平らな部分に戻ると素早く動く一匹の赤いアリを見つけフォーカスする。アリを見ていると、砂丘を一生懸命歩いてきた自分と似ていると思えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:70 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.88 MB

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砂丘のそばに広がるデビルズ・コーンフィールドと呼ばれるエリアには、塩分が含まれる土地にも生息出来るアローウィード(Arrowweed)が生息している。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.39 MB

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大口径望遠マクロレンズで、体調4cmにも満たないメダカ科の小さな魚を追う。塩水が流れるソルトクリークには、最後の氷河期で干上がったマンリー湖の最後の生き残りの魚と言われるデスヴァレー・パプフィッシュが素早く泳ぎ回っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:13.59 MB

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1882年から1889年の間、ホウ砂(Borax)をデスヴァレーから一番近い鉄道の支線へ運び出したワゴンが展示されている。その向こうに見える平地には、かつて多くの中国人労働者が寝泊りしたテントや小屋があった。他の労働者は、現在の公園の中心地であるファーニス・クリークにある宿に寝泊りした。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F13.0 | 焦点距離:34 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.33 MB

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今年の冬は雨が少なかったせいか、それともまだ早いのか、春の花が少なく時より見かける黄色い花(Desert Gold)がよく目立っていた。コンパクトな大口径標準ズームレンズで、風で揺れる手前の花にフォーカスする。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:28 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:9.60 MB

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悪魔しかプレイ出来そうもないことからデビルズゴルフコースと呼ばれ、ゴツゴツした岩塩の結晶で形成された地に、遠くから超望遠ズームレンズを向ける。陽炎で景色が大きく揺れ、気温は35℃を超えていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:439 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.62 MB

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海抜-86m、北米で最も低い地であるバッドウォーター・ベイズンから海面を示すサインを見上げる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 35mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:35 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:13.10 MB

公園内で最も多くの人が集まるスポットのひとつであるバッドウォーター・ベイズンから北上し、公園外のゴーストタウン(Rhyolite)に向け北東へ走る。海抜-86mの低い地からアマルゴーサ山脈を上って行くと気圧と気温の変化を感じる。ネバダ州に入る辺りでは海抜は1,316mとなり、ゴーストタウンに到着すると寒くてジャケットを着込んだ。1905年のはじめに幾つかの鉱坑が開かれて生まれたタウンは、同じ年の6月に人口は2,500人まで増えて栄えたが、良質の鉱石が掘り尽くされると1911年に炭鉱は閉まり1920年にゴーストタウンとなった。私はかつて栄えたタウンの流れた時を感じながら写真を撮り歩いた。

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周囲の土の色に馴染む塗装がされてない木の十字架を見て、ゴーストタウンを通り過ぎて近くの集落(Beatty)の入口まで来てしまったことに気付く。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:23 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.74 MB

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廃墟になっても壁の存在感がある建物。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 30 mm | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F9.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.30 MB

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当時としてはかなり立派な建物だったに違いない銀行跡。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:17 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:5.97 MB

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ミュージアムと土産屋の小さな建物の前に、靴やナンバープレートがくっつけられている木の電柱だったと思われる1本の柱が立っていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 EX DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:7.05 MB

ゴーストタウンからはアマルゴーサ山脈を下って行くと、気温が少しずつ上がっていくのを感じた。空には雲がかかりきれいな夕焼けは期待出来そうもなく、陽が沈む前に山に囲まれた大きな谷底は暗くなり、前夜宿泊したキャンプ場に向った。

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キャンプ場に着くと沈んでゆく太陽が山と雲の間に一瞬現れたが、きれいな夕焼けは見られなかった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/2500秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:200 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:3.42 MB

公園の公式ページに「最も暑く、最も乾燥した、最も低い土地」と形容されているが、寒暖の差がとても激しく、この時期までは冬の支度も必要な土地だ。天気予報ではこの数日間は晴れだったが、夜は空一面に雲がかかり少し風が吹いた。私はこの夜も前夜と同じような冷え込みを予想し、風景だけでなく気候もドラマチックなデスヴァレーの夜に備えた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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