第108回:夏のソルトン湖(Salton Sea)へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第108回:夏のソルトン湖(Salton Sea)へ

湖面も周囲の湖岸も海面下にあるソルトン湖は灼熱の太陽が照りつけ、少し動くと暑さで頭がクラクラした。湖東岸に位置するボンベイ・ビーチは、2年前に訪れた時と同じように生活感はなく、元気なのは、気温42℃の暑さをものともしないペリカンたちだった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F6.3 | 焦点距離:50 mm

夏の訪れを感じたばかりの6月中旬、過去に数回訪れたことがあるソルトン湖に向った。家を出て2時間半、強烈な陽光が照りつけるフロントガラス越しに、巨大な風力発電用の風車が見えてくると近くのレストエリアで休憩を取った。ソルトン湖は悪臭が漂いしつこいハエも多く、この日は気温40℃を越える暑さになるのは分っていた。にもかかわらず、奇妙な湖にそろそろ行かなくてはという想いにかられるのは何故だろうか。砂漠地帯のレストエリアから高い山々を眺め、自分が不思議に思えた。

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レストエリアのパームツリーから鳥の鳴き声が聞こえ、木に近づき見上げてみると小さな鳥を見つけた。木陰に隠れている鳥の頭に木漏れ日が差した瞬間、焦点距離を最長に伸ばした超望遠ズームレンズで捉える。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F7.1 | 焦点距離:500 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:11.44 MB

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白い風車と貨物列車がフリーウェイから見えた。フリーウェイから下りて大きな看板の陰に入り、この地域ならではの光景を空気感と共に写しこむ。

使用機材:SIGMA DP1 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:19 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.48 MB

コロラド川から現在のソルトン湖周辺を含むインペリアル・バレーに農業用水が引かれて間もない1905年、大雨と雪解け水により水かさを増したコロラド川は、アリゾナ州ユマの水路から溢れ出し、現在のソルトン湖周辺のコミュニィティーは水浸しになった。堤防が作られ水の流れは止まったが、低い土地に流れた大量の水でソルトン湖が誕生し、1950年代には人気のリゾート地となった。今日のソルトン湖にかつて栄えた時代の輝きはなく、塩分濃度の高い水でも生きられるテラピアを狙う釣人、鳥好きな人、朽ちゆく建物が好きな私のような物好き以外、訪れる人は多くはない。フリーウェイから広大な農場が広がる道を南下して行くと、乾燥した空気の中にソルトン湖が霞んで見えてくる。湖北岸に到着し朽ちかけたガソリンスタンドの横を通り湖岸に出ると、外敵がいそうもない鳥がのんびりと行動し、ハエがうるさく私につきまとい、堤防では大きな麦わら帽子をかぶった数人の釣人がテラピアをいとも簡単に釣り上げている。農業用水が流れ込み水の出口のない、塩分濃度は海より25%以上も高くなった湖は、2年前に来た時と何ら変わっていないように思えた。

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かつて24時間営業だったガソリンスタンドに、今は人の気配は全くない。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.16 MB

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湖岸に続く道に大小の水のボトルを見かけたが、何のために置かれているのか周囲を見ても分らない不思議な光景だった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F10.0 | 焦点距離:150 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.10 MB

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タイヤなどが置き去りにされた崩れかけた堤防とあまりにも違う存在に見えた白いGreat Egret(チュウダイサギ)。照りつける太陽に反射する白い鳥は、神聖な生き物に見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:206 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.85 MB

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湖面に口先から飛び込んで捕えた魚を飲み込んだペリカン。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 120-300mm F2.8 DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/640秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:300 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.97 MB

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ペリカンが大きな顔をしていたビジターセンター裏にあるバーナー港。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:70 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.72 MB

湖の水かさが増して水没し、朽ちた建物がある湖東岸のボンベイ・ビーチに来ると、朽ちた建物は小さくなって存在感がなくなっていた。気温はさらに上昇し水が蒸発しているのか、湖面付近は霞んでいる。こんな暑い日にここへ来るのは私ぐらいだろうと思っていると、明るいアメリカ人カップルが現れた。この近くのオイルカンパニーで働きテキサス出身だという男性が「おもしろいところだね、昔はたくさんの人が来たけど」と話しかけてくる。連れの女性が笑い、何かを見つけてカメラを向けた先を見ると、湖岸に打ち上げられた魚の死骸で口先にはタバコが添えられていた。「魚はタバコを吸わないだろー」と男性は言った。

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資料によると、海面下-69mの湖面の表面水温は夏場30℃を越えるようだが この日の表面水温もかなり高かったと思われる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.31 MB

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まだ灰も残っているので、タバコを置いてまだ間もないようだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.52 MB

ボンベイ・ビーチの少し東に位置するニランド・マリーナにも立ち寄ると、2年前に来た時には水に下の方が漬かっていたはずの電信柱は、乾燥した土の上に立っている。あの時は雨が降った後で水位が上がっていたのだろうか、それとも湖の水は急激に減少しているのだろうか。暑さのため思考力が鈍っている私は、ただ目の前の光景をカメラに収めた。

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鳥の糞で上部がペイントしたように真っ白になった電信柱は、2年前には3本中2本が水に漬かっていた。照りつける陽光でまぶしい湖岸とのコントラストで黒く見える電信柱を、大口径標準ズームレンズで切りとりモノクロームにして存在感を強調した。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:32 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:8.36 MB

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灼熱の太陽が照りつける朽ちた電信柱を見上げると、雲ひとつない青い空がより青く見えた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:7.87 MB

湖東岸から湖南岸のレッドヒル・マリーナに行ってみると、ボート・ランディングに水は全くなく干上がっている。風向きによって湖岸に押し寄せる水の量が変わると、2年前ビジターセンターでパークレンジャーから聞いた。この日は北風が吹いていないので南岸に水が少ないのだろうか。それにしても、水はボート・ランディングからあまりにも遠くに見える。「毎年湖岸から水がかなり後退していて、そんなに遠くない将来、湖が干上がってしまうかもしれませんね」とパークレンジャーが言ったことが思い出された。

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レッドヒル・マリーナへ向うダート道からの風景。この辺りも昔は湖の一部だったのかもしれない。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/320秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:17.71 MB

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大雨が降るとここまで水が戻ってくるのだろうか。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:20 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:12.63 MB

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2年前、ぬかるんでいて遠くまで行けなかったので長靴を用意してきたが、その必要はなかったレッドヒル・マリーナの南。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F11.0 | 焦点距離:23 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:16.97 MB

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午後5時になっても気温は下がらなかった。枯れた木の枝に鳥の巣があり、その僅かな影で陽射しを避ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200秒 | 絞り値:F16.0 | 焦点距離:8 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136 x 4704 | ファイルサイズ:8.98 MB

雨量にもよるが、現在のソルトン湖の大きさは、縦56km、横24km、水面積970km²と大きい。湖西岸に行くためには最大で約20kmほど湖から離れなければならず、西岸に着くと陽はだいぶ傾いていた。数年前、辛うじて営業していたRVキャンプ場は閉まっていた。釣人の姿もなく、この時間帯、他所から湖西岸への訪問客は私だけだったかもしれない。

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ソルトン・シティーの湖岸は、西に沈みかけた光に染まっていた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 50mm F1.4 DG HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/500秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:50 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:6.98 MB

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道路だけが先にでき、家が建たず迷路のような道が走る集落、ソルトン・シティー湖岸のヨットクラブ跡。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + 18-35mm F1.8 DC HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/250秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:22 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.73 MB

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ソルトン・シー・ビーチの廃墟にこの日最後の陽光が差し込む。陽を失う直前に収めた写真には、落書きされた木の壁の木目がリアルに写し出されていた。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F4.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:9.09 MB

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椅子とタイヤが置き去りにされているソルトン・シー・ビーチ。陽が沈んでも鳥たちは活発だった。

使用機材:SIGMA DP2 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125秒 | 絞り値:F5.0 | 焦点距離:30 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:10.16 MB

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デザート・ショアーズから見る湖面は、夕陽に染まった東の空が反射していた。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + APO MACRO 180mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/25秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:180 mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704 x 3136 | ファイルサイズ:7.23 MB

塩分濃度が上がりいつの日か干上がるだろうといわれるソルトン湖周辺は、太古の時代から水に浸され、周期的に複数の湖が存在した証拠もある。現在の湖の東側と西側の丘陵部に波打ち際だった形跡が見え、過去にはかなり大きな湖が存在したようだ。この地域は人間が環境に手を加える随分前から変化に富んだ運命を持っていた。けっしてきれいな光景ばかりでない現在の湖に惹かれるのは、変化の多かった地球の歴史を垣間見れるからかもしれない。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

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