第119回:秋の富士北麓へ
押本 龍一

押本龍一、東京品川生まれ。
82年英語の勉強のため2年の予定で渡米。84年ニューヨークに渡り刺激を受け予定を変更、広告写真スタジオで働き始める。91年フォトグラファーとして独立。95年ニューヨークからロサンゼルスに拠点を移し現在に至る。エンターテインメント関係の撮影中心。近年はライフワークである旅写真に力を入れている。趣味は旅と山歩き。

オフィシャルサイト : http://oshimoto.net/

第119回:秋の富士北麓へ

10月末、森林限界地点に近く、強い西風で風上の枝が枯死し、風下の枝が伸びた「旗形樹」と呼ばれるカラマツがきびしい自然環境を物語る。富士山北西部の中腹、標高約2,200mの奥庭自然公園は雨が降り強風が吹いていた。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/160 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm

一時帰国した私は、友人の案内で小雨降る朝、富士山の北側から富士スバルラインを上った。富士山もその周辺の事もよく知らず、上るにつれて期待感が高まっていく。スバルラインの最終地点である五合目の約2㎞手前の奥庭駐車場に車を停め、雨に濡れた石畳を下っていく。山頂も雲で見え隠れするあいにくの天気だったが、雨が少ない土地に生活し、乾燥した砂漠地帯を旅することの多い人間にとって、雨の富士山麓は新鮮で独自の空気を感じる。

large
thumbnail-02

薄暗い自然林の中を下っていく。鮮やかな色のない世界をモノクロームに仕上げる。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/60 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:9.71MB

石段を下ると宿泊もできる奥庭荘があり、そのすぐ横には赤い鳥居が立ち、天狗岩と呼ばれる岩が祀られている。奥庭火山の噴火口にあたる平地の奥庭は、富士山に住む天狗様が日夜奥庭で遊んだことから、土地の人は天狗の庭と呼んでいた。天狗岩は天狗が山頂から小脇に抱いて持ち帰りここに据え、天に昇る時と天から降りて来る時に台石としたので天狗様の霊魂がこもり、人々は山に入る際に道の守護と猛獣怪奇の無難を拝んだ。さらにこの岩を信仰すると夫婦円満になるとも伝えられている。

large
thumbnail-03

鳥居は誰の目にも必ず留まる場所に立ち、天狗岩は絶対的な存在に見える。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3616×5424 | ファイルサイズ:10.77MB

large
thumbnail-04

奥庭は大小の溶岩が転がり苔が生え、噴火口の跡が感じ取れる。モノクロームにして調色は青緑を選んだ。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/40 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:105mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:20.52MB

large
thumbnail-05

雨に濡れて輝く黄葉したカラマツに大口径中望遠マクロレンズを向ける。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:105mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:15.02MB

奥庭自然公園は野鳥好きな人には人気のスポットのようで、奥庭荘で野鳥を撮りに来たカメラマンとすれ違う。そこから石畳の奥庭自然探索路を登っていくと開けた場所に出る。雲がかかりよく見えなかった富士山頂が時よりその姿を見せ、晴天の日はとてもよい景色が見られることは誰でも想像できた。

large
thumbnail-06

黄葉したカラマツの葉が落ちた石畳の奥庭自然探索路を登る。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:30mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3616×5424 | ファイルサイズ:19.06MB

large
thumbnail-07

開けた場所まで登ると、雲が少し切れて山頂が見えた。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:12.89MB

large
thumbnail-08

一時、雲が完全に切れて雪に少しだけカバーされた富士山頂が見えたが、私が想う富士山とは違うきびしい表情をしていた。モノクロームにして白と黒のシンプルな世界観に仕上げる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/400 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:200mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:8.94MB

large
thumbnail-09

黄葉したカラマツがいいアクセントになった標高約2,200m付近の富士山中腹に雲がかかる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/200 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:97mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:12.25MB

large
thumbnail-10

雨に光る樹木の美しさを見ると雨でよかったと思えてくる。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/6 秒 | 絞り値:F16 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:18.68MB

large
thumbnail-11

探索路から逸れて鬱蒼とした森の中に少しだけ足を踏み入れてみる。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:20.68MB

せっかく来たのだからと富士スバルラインの最終地点である標高2,305mの五合目まで上がり、そこから下って富士北麓に広がる青木ヶ原樹海へ向う。若い自衛隊員のグループが歩く県道71号線沿いに車を停め、標高1,102m地点から精進口登山道に入る。溶岩上の樹海は1100年の歳月をかけてできた比較的若い森だそうだが、森の知識がない私にはものすごく古い森に見え、太古の時代に戻ったような気持になって薄暗く神秘な森の中を散策した。

large
thumbnail-12

富士スバルラインの五合目の手前から、霞んだ青木ヶ原樹海方向を見る。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/125 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:24.52MB

large
thumbnail-13

緑の青木ヶ原樹海をモノクロームにして調色は緑を選んだ。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/6 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:13.66MB

large
thumbnail-14

子抱き富士と呼ばれる大室山の麓にある国指定天然記念物の富士風穴(ふじふうけつ)。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/5 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:21.17MB

large
thumbnail-15

キノコの一種だろうか、そうだとしたら植物ではなく生物になるそうだが、いずれにしても薄暗い森の中で目を引いた。温黒調にして森の温かみを表現。

使用機材:SIGMA DP3 Merrill | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/8 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:50mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:12.42MB

鬱蒼とした神秘的な青木ヶ原樹海を散策した後は、山梨県富士吉田市上吉田にある北口本宮冨士浅間神社に向い、3時過ぎに境内に到着する。10月末の雨の午後はすでに薄暗かったが、紅葉した楓が境内を明るくしていた。

large
thumbnail-16

鳥居と比べると、楓の強い赤がよくわかる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/25 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:105mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:16.07MB

large
thumbnail-17

境内は楓一色だった。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/15 秒 | 絞り値:F8.0 | 焦点距離:105mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:4704×3136 | ファイルサイズ:18.72MB

<
large
thumbnail-18

紅葉した楓を背景にした白い紙垂にフォーカスし、日本らしさを感じる光景を切りとる。

使用機材:SIGMA SD1 Merrill + SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/30 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:105mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:3136×4704 | ファイルサイズ:8.16MB

large
thumbnail-19

薄暗い境内で白い紙垂と赤い楓は、計算されたような色の組み合わせに思えた。

使用機材:SIGMA dp2 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:100 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:0.5 秒 | 絞り値:F11 | 焦点距離:30mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:14.22MB

large
thumbnail-20

北口本宮冨士浅間神社は、富士山の吉田口登山道の入口でもある。

使用機材:SIGMA dp1 Quattro | 露出モード:M-マニュアル露出 | ISO感度:200 | ホワイトバランス:晴れ | シャッター速度:1/4 秒 | 絞り値:F5.6 | 焦点距離:19mm
ファイル形式:JPEG | 画像サイズ:5424×3616 | ファイルサイズ:12.13MB

日本一の富士山とその周辺を良く知らない私は、友人の案内で思いがけず秋の富士北麓を見ることができた。数週間前にカリフォルニア州のシエラネバダ山脈の秋を撮っていたので、空気感の異なる秋を肌で感じてカメラに収めた。同じ秋でも土地が変われば色も空気感もかなり変わる。その違いは高画質なセンサーにはっきりと記録されていた。

※ このページに掲載された作品は、RAWデータ(X3F)を「SIGMA Photo Pro」で現像処理をしたものです。
一部、現像後にゴミ取りのためにレタッチソフトウェアを使用した画像もございます。

Page Top