シグブラ
第28回:下町の川沿いブラブラ

下町の川沿いブラブラ

March 26, 2014

北千住で地下鉄を降りる。いつの間にかすっかりキレイになった駅前から荒川に向かう。独特の雰囲気が薄れて洗練されてきた街は少しよそよそしかった。狭い路地を幾度か曲がって土手を登ると、広々とした河川敷の光景が目の前に拡がり、草の匂いが鼻腔をくすぐった。

土手上でSIGMA SD1 Merrillにレンズを装着する。今日はAPO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMという10倍ズームレンズ一本だけ。75ミリから750ミリ相当の画角だけで河川敷をブラブラ撮影する算段である。小脇にレンズをつけたカメラを抱えて土手を降りる。水際から土手方面を振り返ると、少年野球の一団がスカイツリーをバックに走り抜けていくところであった。

荒川沿いを下流方面に向かって撮り歩く。サッカーや野球、ウォーキング、サイクリング、ウェイクボードなど様々なスポーツを楽しむ人たちで春の川は大賑わいだ。しかし、川にほど近い駅はガランとしていて寂しい雰囲気なのが印象的だった。ここから水路沿いに隅田川方面に向かうとしよう。

荒川も隅田川も「川」には違いないが「水路」と呼ぶ方が似つかわしい。カミソリ堤防に囲まれ、水運に供される河川の運命だろうか。赤く錆びた艀や浚渫船が、真っ白に輝くタワーマンションと対照的に見えた。

川と川に挟まれ、城壁のような堤防に区画されたエリアは新陳代謝が激しい。古く味があった建物がどんどん壊されて、まるで浄化するかのように四角いマンションに塗り替えられていく。そのうちこの一帯は全てが同じような建物で埋め尽くされてしまうような気さえしてくる。

気温が上がり、春が深まるにつれて超望遠レンズの撮影は難しくなる。暖かい空気が揺らいで遠景が滲んで写るのだ。春霞も頻繁に発生して視界も徐々に悪くなってくる。寒いのは勘弁だが、撮影の時は視界がクリアな冬がいいな、と思いながら手持ちで橋上の人を撮影した。

いつの間にかスカイツリーがとても大きく見える位置まで歩いてきていた。頭上にはゆりかもめの群れが飛び交う。そういえばこのタワーに登ったのは、一般公開前の報道関係者限定お披露目の時であった。まだ工事中で飾り付けがされていない展望フロアから見下ろした東京の眺めを思い出した。

隅田川のカミソリ堤防沿いを歩く。浅草が近づくにつれて人がドッと増えてきた。円安になった影響か外国人観光客がとても増えてきた印象だ。観光船には乗船する客が長い列を作っている。その皆がスマートフォンを手に咲き始めた桜の写真を撮っているのが面白かった。歩いているとふと周囲が鮮やかな光に包まれた。対岸のビールジョッキを模したガラス張りビルからのリフレクションだった。

超望遠高倍率ズーム一本だけで川沿いをブラブラした一日だったが、なかなかいろいろと撮影ができた。ワイド端が50ミリからということもありオールマイティーに撮れた印象だ。またこの組み合わせでどこか行くのもいいなと思いつつも、次は明るい単焦点レンズ一本だけでブラブラするのもいいな、と悩みながら暗くなりつつある下町をブラブラと歩いて帰ったのであった。

三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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